感情の異常

心理学では感情の他に、情動や気分、情操という言葉が用いられる。

情動とは、喜怒哀楽などの強い感情の変化で、原因が明確でありその持続時間は比較的短い。気分とは、弱い感情の変化で原因が必ずしも明確ではない。情動と比べ持続時間が長い。

情操とは、道徳・宗教・芸術・文化といった社会的価値を持った高等感情である。これらは学習を通して獲得され、複雑で持続的な感情傾向である。

単に感情という言葉を用いる場合には、これらの情動や気分、情操といった意味を含んでいることが多い。

感情の異常という場合、感情変化の大小やその持続時間を問題とすることが多い。

感情反応の低下

感情反応の低下は、対人関係や外界の刺激に対する興味関心の減退でもある。大きく分けると感情鈍麻と情動麻痺がある。

感情鈍麻

通常であれば感情的な反応を起こしそうな状況でも、その反応が見られない状態である。様々な出来事への興味や関心が失われ行動意欲も低下するため、自発的に意思のある行動もしなくなってしまう。その結果、社会活動への積極性がなくなり、行動範囲が狭くなる、自室に引きこもるといったことが多くなる。

この他には、痛みや空腹、暑い寒い、臭い、うるさいなどの苦痛や不快な状況にも反応を示さなくなることもある。また、芸術性や倫理性などの知的な領域まで反応を示さない状態は、高等感情の鈍麻と呼ばれる。

感情鈍麻は軽度の場合には、日常生活にその異常性は見られないことが多い。

情動麻痺

突発的な激しい体験よって、一時的に情動が麻痺してしまう状態である。生命を脅かされるような危険な状況にあるにもかかわらず、他人事であるかのように冷ややかに観察したり、考えたりする。

感情反応の亢進

外界の刺激に対する感情反応が高まっている状態で、代表的なものとして情動失禁がある。

情動失禁は、感情のコントロールが上手くできないために僅かな刺激にも過剰に反応してしまう状態で、ちょっとしたことで泣いたり、笑ったり、怒ったりする。大脳の器質的原因であることが多いが、重度の疲弊状態でも起こることがある。

抑うつ状態

感情の異常の代表的なもので、気分が落ち込み、興味関心の減退や行動意欲の低下が長期間続く状態である。抑うつ状態が続くと心理的なものにとどまらず、生理的な異常にまで発展することもある。

心理的メカニズムや生理的メカニズムはいまだに明らかではないが、近年の脳科学の発展によって、神経科学からの解明が期待されている。

躁状態

抑うつ状態とは逆に、気分が高揚した状態が続くのが躁状態である。意欲が高まり心理的な充実感や健康感があるため、行動的で常に動き回っていても疲れを知らない状態である。

一見、健康な状態に見えるが、長期間躁状態が続くと、欲求のコントロールができないため過度の浪費や性的な逸脱に至ることや、対人関係のトラブルも多くなり社会生活にも影響を及ぼす。また、幻覚や妄想が出現することもある。

軽度の躁状態は軽躁状態、うつ状態と躁状態が混合しているものは躁うつ状態と呼ばれる。

その他の感情異常

不安

不安は健常者にも起こる普遍的な心理現象で、身体的あるいは精神的な危険から自分を守ろうとする防衛反応であると考えられている。不安と対象は漠然としており明確ではないが、日常生活の妨げにならない範囲であれば正常な感情反応といえる。

どのような場面で不安を感じるかは人によって異なるが、それらが日常生活に支障をきたすといったことが長期間続けば異常な感情反応といえる。

不安感情のメカニズムは明確ではないが、過剰刺激、不調和な認知、刺激への不適切な対応によって生起するというプロセスや、個人的な予測と現実との相違が不安感情生起の原因のひとつと考えられている。

恐怖

有害な刺激から自分を守ろうとする情動反応である。不安と区別されないこともあるが、一般的には、不安は対象が明確ではないのに対し、恐怖は対象が確定されているものとして区別される。

不安と同様、何に対して恐怖を感じるかは人によって異なり、日常生活に支障をきたすようになると恐怖症あるいは強迫症と呼ばれる。

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