新生児模倣

メルツォフとムーアは、生後間もない新生児において舌出し模倣という模倣行動が行われることを発見している。新生児における模倣行動は他にも口を開ける、口をすぼめるなどが確認されているが、乳児と比べると非常に限定的であり、これらの新生児模倣は生後2ヶ月程度で消失するという結果も報告されている。

新生児模倣にはいくつかの疑問が提示されている。まず、新生児がなぜ顔のパーツの動かし方を知っているのかである。模倣におけるそれまでの考え方は、ピアジェの理論によって示された「経験の蓄積によって模倣を学習する」というものであった。それが鏡を見たわけでもないのに、こうするとここが動くということを新生児は知っているのである。この疑問にはいくつかの仮説が提示されている。


AIM仮説

新生児模倣のシステムとして、視覚などの知覚情報が運動情報とひとつの枠組みで統合されるというアクティブ・インターモダル・マッピング(AIM)と呼ばれるものが想定されている。AIMは視覚や運動だけでなく様々な感覚様相が共感覚的に働くため、どう動かせばその動きを実現できるのかという情報も同時に付与される。人にはこのような機能が生得的に備わっているため、新生児模倣ができるという仮説である。

ミラーニューロン仮説

新生児模倣システムのもうひとつの可能性として、ミラーニューロンがある。ある行動を行うと脳の特定の部位にあるニューロンが活発化するが、観察者の目の前にいる人物が同じ行動をしても観察者は自分が行動したときと同じ部位のニューロンが活発化することから、このニューロンはミラーニューロンと呼ばれている。ミラーニューロンは初めはマカクザルで発見されており、人間にあるかどうかは確実ではないが、ほぼ間違いないと言われている。

AIMとミラーニューロンは機能的にはほぼ一致しているが、自己と他者の区別の違いが指摘されている。

新生児模倣は模倣なのか

新生児模倣のもう一つの疑問は、そもそも新生児模倣は模倣なのかということである。新生児に舌出しとは関係のない視覚刺激や聴覚刺激を与えた場合にも、舌出し行動が有意に増加するという報告もある。

この議論は現在も続いているが、メルツォフは、新生児模倣は記憶に基づいて行うことを確認しており、これは反射的なものではないとしている。

新生児模倣が模倣であったとしても、乳児における模倣と同じシステムなのかという疑問は残る。新生児模倣が生後2ヶ月で消えることを考えると、違うシステムである可能性も否定出来ない。これについてメルツォフらは、新生児模倣は消失するように見えるだけで、条件が整えば消失しないとしている。


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