印象形成の特徴
人は初対面の相手でも、相手のわずかな情報から瞬時に印象を形成する。どのような情報がどのように統合され印象を形成するのか、ここでは印象形成における一般的な特徴を掲載する。
特性の推論
相手がどんな人物であるかは、直接見ることができる外見や行動からその特性を推論している。この特性を推論する過程は自発的・自動的に生起し、一度確定した特性は具体的な事例を忘れた後も、一般化された印象として残りやすい。
また、ある特性は別の特性を共起させるので、人格全体の推論に及ぶこともある。共起される特性については、その人の経験や知識によって異なる。
例えば「やさしい」という特性から「怒らない」「好意的」「気が利く」など、一般的にポジティブな特性を共起するが、人によっては「優柔不断」「自分の意見を持っていない」などネガティブな特性を共起することもある。
顕現性
人は地に浮かぶ図やインパクトの強いものに注意を向ける傾向が強い。これは印象形成においても同様で、目新しさや周りとは違うもの・動きなど目立ちやすいものに注意を向けやすい。このような顕現性の高い刺激によって形成される印象は極端化されやすい。
例えば、多数の女性のなかに男性が1人だけの状況は目立つので、その男性の評価は好悪どちらかの極端なものになりやすい。このような場合は目立つだけでなく、比較対象が少ないために評価が極端化されることも挙げられる。
目的
一般的に、相手がどのような人なのかを理解しようとする場合の方が、漠然と記憶しようとする場合よりも、関連性の高いまとまりのある印象を形成するので思い出しやすくなる。
また、どのような目的で相手を理解しようとするかによっても印象は異なったものになる。例えば、相手に対して期待を抱いている場合、その期待と合致する印象を形成することがある。これは自分の期待と合致するような特性ばかりに注目してしまう確証バイアスによるものと考えられる。
内的状態
印象形成には、相手の情報だけでなく自分自身がどのような内的状態にあるかによっても大きく影響される。一般的に、ポジティブな気分のときは好意的な印象を形成し、ネガティブな気分のときには非好意的な印象を形成する。
また、活性化している知識によっても異なる印象を形成することがある。ヒギンズによるプライミングの実験では、あらかじめポジティブとネガティブのそれぞれの特性概念を活性化しておき、ある人物について記述した文章を読んでもらい印象を求めたところ、ポジティブな特性概念が活性化している群の方が、ネガティブな特性概念が活性化している群よりも好印象を形成している。
印象形成のバイアス
印象を形成する際、一般的には他者に対してポジティブな期待をするので、相手の印象はポジティブな方向に片寄りやすい。この現象はパーソン・ポジティビティ・バイアスと呼ばれる。
ポジティブな期待をすれば、ポジティブな特性に目がいきやすいが、その中でネガティブな情報があると、全体の印象にまでネガティブな影響を与える。これはネガティビティ・バイアスと呼ばれ、ポジティブ情報の中に異質なネガティブ情報があると注意を引きやすく、重要度が高いと判断されるために生じると考えられている。特に、道徳性についての判断では顕著に現れる。
既存の知識
印象形成には、各特性間のつながりやその特性に対するイメージなどの個人的知識によっても影響する。特に重要な他者との関係が印象形成に大きく影響をあたえることが示唆されている。実際に父親や母親、初恋の相手と外見や振る舞いが似ていると好意を持ちやすい。自分にとって重要な他者については、構造化された表象を形成し、それが新たに出会った相手の印象形成の枠組みとして働くと考えられている。
また、新しい出会いに対してどう感じているのかも影響を与える。新しい出会いは楽しい、喜びを感じるなどのポジティブな経験をしていると、相手に対してポジティブな期待をするので好印象を形成しやすい。しかし、対人関係を楽しくない、苦痛であるなどネガティブな経験をしていると、相手の印象は良い物になりにくい。
- 『認知心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2010)
- 『認知心理学 (放送大学教材)』 放送大学教育振興会(2013)
- 『錯覚の科学 (文春文庫)』 文藝春秋(2014)