視覚的注意

顕在的注意と潜在的注意

ポズナーらは、視覚的注意は顕在的注意と潜在的注意に分類できるとした。顕在的注意は外的刺激などによって喚起される受動的な注意であり、注意の対象と視線が一致する。潜在的注意は意図的にある位置に注意を向ける能動的な注意であり、注意の対象と視線が一致しない。


先行手がかり法

空間的注意の特性を検討する代表的な実験手法として、先行手がかり法という方法がある。これは目標刺激が提示されたら、できるだけ速く反応キーを押すという課題を被験者に与え、目標刺激が提示されてから反応キーが押されるまでの反応時間を計測する。このとき、目標刺激が提示される直前に、目標刺激の位置を示す先行手がかりが提示される。先行手がかりは、目標刺激が提示される位置を正しく示している有効条件と、正しく示していない無効条件とがある。また、先行手がかりが提示されない中立条件の場合もある。通常の場合、有効条件では無効条件や中立条件よりも反応時間は短くなる。

上記は先行手がかり法の最も基本的な方法であるが、先行手がかりの数を増やすなど様々な方法が考案されている。

視覚探索

特定の対象(目標刺激)をそれ以外の妨害刺激の中からを探しだすことを視覚探索と呼び、 視覚探索は先行手がかり法と並んで多くの研究を生み出してきた。視覚探索の効率は妨害刺激の性質や数に依存しており、探索が効率的になるのは、妨害刺激の種類が少ない場合や、目標刺激と妨害刺激が大きく異なっている場合である。

目標刺激と妨害刺激の違いが形だけである場合や、色だけである場合など、単一の視覚的特徴を手がかりにした視覚探索を単一特徴探索と呼ぶ。単一特徴探索は、一般的に効率よく探索を行うことができる。提示された目標刺激が即座に目に飛び込んでくるポップアウトと呼ばれる現象が起きるため、妨害刺激の数が増えても探索時間は変わらない。

目標刺激と妨害刺激に2種類以上の特徴の違いがある場合の視覚探索を結合探索と呼ぶ。結合探索では目標刺激を妨害刺激の中からひとつひとつ検討していく逐次的な処理の特徴を示すため、妨害刺激の数の増加に伴って探索時間は長くなる。

単一特徴探索と結合探索の違いの説明として、特徴統合理論が提唱されている。特徴統合理論には2つの段階があり、初期段階では色や形、方向などの基本的特徴を抽出し、それら特徴ごとの特徴マップとして表象される単一特徴探索である。次の段階では基本的特徴を結合し、逐次的に探索が行われる結合探索である。

変化の見落とし

注意を向けているにもかかわらず、対象に気づかない現象も存在しており、その中で変化の見落としと呼ばれる現象がある。もっとも単純なものでは、2枚の同じ画像のうち1枚を部分的に加工し、2枚の画像を順番に提示するものがある。このとき2枚の画像間に短い時間のブランクを挟むと、2枚の画像の違いに気づくことは困難になる。しかし、一度変化点に気づくと、今度はそこが目立ってしまい同じ画像には見えなくなる。これはフリッカーパラダイムと呼ばれる。

ストループ効果

2つの特徴を持つ対象に対し、1つの特徴に注意を向けさせたとき、注意を向けていない特徴に反応が妨害されることをストループ効果、またはストループ干渉と呼ぶ。ストループ効果の代表的なものとして、色名を答える課題がある。赤い色で書かれた「あか」という文字の色名を答える場合より、他の色(例えば青い色)で書かれた「あか」という文字の色名を答える方が、回答に時間がかかる。これは1つの特徴にのみ注意を向けさせても、注意を向けていない特徴が自動的に処理される場合に生じると考えられている。

上記の課題で色名を答えるのではなく、文字を読み上げる課題を行わせたときに生じる反応遅延は逆ストループ効果と呼ばれる。通常はストループ効果に比べると反応遅延効果は小さく、ほとんど干渉が生じない。しかし、新ストループ検査と呼ばれるストループ効果と逆ストループ効果を同時に測定できる課題では、逆ストループ効果による反応遅延が生じることが知られている。また、この検査によるとストループ効果と逆ストループ効果では、異なる認知過程経て処理が行われていることが示唆されている。

負のプライミング

先行刺激で無視した物体が、後続刺激の反応を遅延させる効果を負のプライミングと呼ぶ。代表的な課題として、赤色と緑色で描かれた2つの物体を重ね合わせた先行刺激と後続刺激を継時的に提示するものがある。このとき赤色の物体にのみ注意を向けさせ、先行刺激で無視した物体を、後続刺激で名前の判断を行わせると、反応までの時間が長くなる。これは、注意を向けていない無視した刺激に対しても、情報処理が行われていることを示している。

注意の瞬き

同じ位置にたくさんの視覚情報を継時提示するとき、2つの目標刺激を検出しようとすると、1つ目の目標刺激は極めて高い確率で検出できるのに、2つ目の目標刺激は見落とされやすくなる。これは注意の瞬きと呼ばれる。注意の瞬きは2つの目標刺激の提示される時間間隔が短いときに生じることや、2つ目の目標刺激だけに注意を向けると検出率が高いことなどから、1つ目の目標刺激の情報処理で負荷がかかり、2つ目の目標刺激の情報処理が不十分になってしまうことで起こると考えられている。また、注意の瞬きは視覚だけでなく、聴覚や触覚などでも生じることが知られている。


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