ワーキングメモリ

二重貯蔵モデルの短期記憶では、情報の貯蔵だけを考えていたが、バッデリーらは短期記憶は単なる情報の入れ物ではなく、計算や推論、理解などの認知的活動において、情報処理などの作業場としての機能を果たしていると考えた。近年では短期記憶という言葉の代わりに仕事をする記憶として、ワーキングメモリ、または作動記憶と呼ばれている。ワーキングメモリは短期記憶ではなく長期記憶の一部であるとする理論も提唱されている。

バッデリーらのワーキングメモリは性質の異なるサブシステムから構成されていると考えられており、音声ループ、視・空間スケッチパッド、中枢制御部の3つのサブシステムが想定されている。


音声ループ

音声ループは、音声を保持する機能と、保持されている音声情報を繰り返し音声化する機能を持っている。音声ループは短期記憶同様、短い時間しか情報を保持しておくことができず、一度に保持できる量にも限界がある。また、音節の短い単語は覚えやすいが、長い単語は覚えにくく、単語の音節の長さが長くなればなるほど再生率は低くなり、読みの速度も遅くなることが実験により示されている。これを語長効果と呼ぶ。

左側頭葉に外傷を受けた患者の中に、単語や数字などの言語刺激を視覚提示し、再生させても成績に問題はないが、聴覚的な提示を行うとうまく再生できない患者がいる。これは音声を保持し、音声化する機能に問題があると考えられており、音声ループの存在を示すものとなっている。

視・空間スケッチパッド

視・空間スケッチパッドは視・空間情報を保持し、それを操作する機能を持っている。視覚や空間などのイメージ情報を頭のなかで思い浮かべるときなどに利用される。

バッデリーらの実験では、聴覚的メッセージを与えると同時に、視・空間情報処理を必要とする課題を行ってもらい、その後、聴覚的メッセージの再生を行ってもらった。すると、視・空間情報処理を必要とする課題を行わなかった場合と比較して、視・空間情報に符号化できない聴覚的メッセージの再生に影響はないが、符号化できるメッセージの再生には影響を与えた。

この実験では、2つの視・空間課題を同時に遂行するのは困難であり、このことから視・空間スケッチパッドの存在が示されている。

中枢制御部

中枢制御部には情報を保持する機能は無いが、音声ループや視・空間スケッチパッドの情報と、長期記憶からの情報を統合し、情報の取捨選択の機能を持っている。


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