観察学習の行動療法への応用

バンデューラらの研究によって、モデリングの手法は行動療法にも応用されるようになっている。特に新しい行動の生起においては、オペラント条件づけをもとにした方法では非常に時間と手間のかかるものであったが、モデリングを用いて模倣させる方法では比較的簡単に行動を生起させることができる。

行動頻度の促進においても、有効だと考えられる方法は多く見出されている。ここではその中でも基本的なものを紹介する。


段階的モデリング

オペラント条件づけにおいて、徐々に目的の行動に近づけていく反応形成が有効であったのと同じように、モデリングにおいても単純で簡単な行動から始め、段階を経て望ましい行動に近づけていく段階的モデリングの手法は多くの行動療法プログラムで使用される。

モデルの有無

バンデューラらは段階的モデリングを用いて、イヌをひどく怖がる幼児たちの恐怖を軽減させる実験を行なっている。この実験では実験対象を4つの群に分けており、第1群では、自分たちを同じような年齢の子どもがイヌと徐々に親密度を高めていく段階的モデリングのビデオを何度か見せた。このとき、不安を軽減させるために開かれたパーティーの文脈で行われた。第2群では同じモデリングでパーティーの文脈なしで行われ、第3群ではパーティーの文脈でイヌは登場するがモデルが登場しないビデオを見せた。また、第4群ではパーティー文脈であったがイヌもモデルも登場しなかった。

幼児たちは、ビデオ視聴直後と一か月後に行動テストを受けた。その結果、パーティー文脈と中性(パーティーなし)の文脈の間には有意な差はなかったが、モデルありの群(第1群と第2群)はモデルなしの群よりも優れた改善が見られ、それは一か月後のテストでも変わりなかった。

他の実験からも、モデルの有無が行動の改善に大きな影響を与えていることがわかっている。

参加型モデリング

モデリングは子どもだけではなく大人の恐怖症の改善にも使用される。特に、モデルの観察に加え、恐怖対象との関わりを徐々に増やしていく参加型モデリングが有効である。

バンデューラらは、ヘビの恐怖症患者にモデルとなる治療者がヘビを全く恐れずに扱うところを見せた。その後、患者はヘビを持っている治療者に近づく、治療者の腕に触る、ヘビに触る、といった段階的な行動をとらせることで徐々に恐怖を軽減させていった。

参加型モデリングの技法は、他の恐怖症にも有効であることが様々な研究から示されている。

ビデオ・セルフモデリング

自分が望ましい行動をとっているビデオを見ることで、その行動を増加させる方法はビデオ・セルフモニタリングと呼ばれる。

この方法はまず、患者が望ましい行動をとれるように治療者ができる限り手助けをして、それらをビデオに収める。そしてそのビデオに写っている患者の望ましくない行動や治療者が手助けしている映像を除去し、患者が誰の助けも借りずに望ましい行動をしている映像にして、それを患者に見てもらうのである。

ビデオ・セルフモデリングの研究では、他者がモデルとなる場合より、自分がモデルとなっている方がより行動の改善がみられることがわかっている。


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