結果の知識とパフォーマンス

条件づけや社会的学習のカテゴリーでは主に行動頻度を問うものであったが、運動技能学習では行動の正確性に関する部分が主となる。


結果の知識

効果の法則」でも知られているエドワード・ソーンダイクは、人間の運動技能に関する研究も行っていた。ある実験では、目隠しをした実験対象に3インチの長さの線を描かせた。第1群では長さが一定の誤差範囲内であれば正確に描けているという結果を知らされたが、第2群では正確かどうかにかかわらず結果は知らされなかった。その結果、驚くべきことではないが、正確に描けているという結果を知らされた第1群は、試行に伴い正確さが増していった。

ソーンダイクはこれを強化の概念を用いて説明しているが、トローブリッジとケーソンは、運動技能の正確さに関しては、強化ではなく情報のフィードバックが影響していると考え、ソーンダイクのものを発展させた実験を行っている。また、現在ではこのような情報のフィードバックは結果の知識(knowledge of results)と呼ばれ、頭文字をとって「KR」とも呼ばれる。

彼らは実験対象を4群に分け、第1群はKRなし、第2群は正しいか間違いかを知らせる質的KR群、第3群はどれくらいの誤差があるかとその方向を知らせる量的KR群、第4群はその試行には役に立たない無意味綴りを知らせる無関連KR群とした。

その結果、KRなしと無関連KR群は試行に伴うパフォーマンスの改善は見られなかったが、質的KRと量的KRの群は明確な改善が見られた。特に量的KR群は質的KR群よりも早い段階で改善が見られ、より優れたパフォーマンスを示した。

この実験から、パフォーマンスの正確性においては、フィードバックの情報が関係しており、特に量的なKRが優れたパフォーマンスを生じさせていると結論づけることができる。

フィードバックの頻度

ウィンスタインとシュミットは、すべての試行後に量的なKRを与える群と、67%の試行後にだけ量的なKRを与える群にわけて運動技能学習の実験を行っている。

その結果、学習期間中はすべてにKRが与えられる群の成績がわずかによかったが、2日後にフィードバックなしのテスト行うと、67%のKRを与えられていた群の方が、成績が良かったのである。

これは、試行後に毎回フィードバックを受ける場合の方が、技能の獲得期間中はパフォーマンスが急激によくなるが、フィードバックに依存するようになってしまうため、フィードバックがなくなるとうまく実行できなくなると考えられている。

結果の知識の遅延

動作の後に時間をおいてフィードバックを受ける場合、動作直後にフィードバックを受けるよりも成績が悪くなることは様々な実験から明らかになっている。また、フィードバックの遅延時間が長くなるほど成績が悪化することもわかっている。

パフォーマンスの知識

結果の知識は動作後の結果だけを実験対象に知らせるものであったが、運動に関するコツや「こうした方がうまくできる」といったアドバイスなどはパフォーマンスの知識(knowledge of performance)と呼ばれ、頭文字をとって「KP」とも呼ばれる。

カーノドルとカールトンは、利き手とは反対の手でボールを遠くへまっすぐ投げる学習課題で、KPを使った実験を行っている。彼らは実験対象を4群に分け、第1群では正確な距離のフィードバックつまり通常のKRを受け、第2群では投球後にその投球運動の再生ビデオを見てもらった。第3群では訓練中に、うまく投げるために10の要素に注意するよう告げ、その投球後に再生ビデオを見てもらった。第4群では再生ビデオを見ている間に、次の試行での改善点を告げた。

その結果、再生ビデオの視聴と改善点の指示を受けた第4群が、投球距離の最も大きな向上が見られた。新しい技能の学習では、漠然とした注意点よりも、より具体的な改善点を示した方がパフォーマンスの向上が速いといえる。

一般的に、どのようなフィードバックが学習者にとって有用なのかは、どのようなタイプの技能を学習するかに依存しているようである。ただ、これまでの研究から明らかなのは、量的なKRが役に立ち、さらに精巧なフィードバックがパフォーマンスの向上に大きく貢献していることである。


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