運動技能の練習と能率

新しい運動技能をどのようにすれば能率よく獲得できるのかについてはさまざまな条件が関係しているため、一概にこれがよいとはいえない。ただし、特定の条件下での研究は蓄積されてきている。


集中練習と分散練習

休憩を挟まずにまとめて練習を行う集中練習と、小刻みに休憩を挟む分散練習については、昔から研究が行われている。

例えば、キンブルとシャテルによる、回転盤を金属棒で追跡する実験がある。一定のスピードで回転する円盤を50秒間金属棒で追跡する作業を10日間にわたって行ない、50秒間の作業の後に5~10秒の短い休憩を入れる集中練習群と、65~70秒の休憩を入れる分散練習群とにわけて成績を比較している。

その結果、明らかに分散練習群の方が毎日の成績が良く、日数が進むごとにその差は大きくなっていった。

その後、アダムスは同じ回転盤追跡の実験で、休憩時間を0、3、10、20、30秒と細かく分けて比較している。その結果、休憩時間が長くなるほど成績が良くなる傾向が見られたが、10秒以上になると成績の上昇率はそれほど大きくはならなかった。

分散練習の方が成績が良くなる理由に関しては、同じ作業を繰り返す飽きや疲労の蓄積が考えられている。実際に他の研究においても、休憩の直後に成績の向上が見られることが多い。また、獲得する運動技能のタイプによっては集中練習と分散練習に差が見られなかったり、長期的に見た場合にはほとんど差が見られないとする研究もあるため、どちらかといえば分散練習が良いという程度にとどまっている。

交互練習と多様練習

集中練習には同一の運動を繰り返し練習するという意味も含まれている。すると、異なる運動を交互に行う交互練習や、複数の異なる運動をランダムに行う多様練習などと、どちらが能率よく獲得できるのかという疑問が出てくる。運動技能に関するこの手の研究はあまり多いとは言えないが、ひとつだけ面白い研究を紹介したい。

カーとブースは、8歳の子どもたちを2つの群にわけて玉入れの練習をしてもらった。ある群には90センチ離れたところから、別の群には60センチと120センチ離れた両方から練習をしてもらった。そして12週間後のテストでは、両方の群で90センチ離れたところから投げてもらった。その結果、成績が悪かったのは90センチ離れたところから練習していた群であった。

テストの結果は我々の常識とは明らかに異なっている。一般的にはテストと同じ条件で練習をするのが最も能率的と考えられがちであるが、認知機能の観点からこの手の研究は進んでおり、そこでは交互練習と多様練習は状況に応じた判別力を学習しているため、テストの成績がよくなるのではないかと考えられている。

全習と分習

複雑な運動技能を学習するとき、全体をまとめて練習する全習と、いくつかの部分に分けて部分練習を行う分習とではどちらが良いのかというのは、多くの場合に当てはまる問題である。

結論から言えば、これは課題の複雑さと学習者の既存の運動技能に依存するため、条件次第であると過去の研究は示している。極端に言えば、それほど複雑でない課題を細かく分割しても学習効率は落ちるであろうし、非常に複雑な課題をまとめてこなそうとすれば、モチベーションが低下したり途中であきらめてしまうことも考えられる。学習者に合わせて適度に分割するというのが最も効率的であると考えられる。

観察学習

観察学習が行動の獲得に貢献するのと同じように、運動技能においてもパフォーマンスを向上させる。特に課題の練習と観察学習を併用することで、課題の練習だけの群よりも優れた成績を示すことがわかっている。

また、自分が運動している姿をビデオに収めて自分で確認するセルフモニタリングは、他人が運動しているビデオを見るよりもパフォーマンスの改善を示すという研究もある。

技能の転移

習得した運動技能が、他の類似の運動技能を練習するときに役に立てば、効率よく獲得できるはずである。このような技能の転移は条件づけにおける般化の問題と似ている。つまり2つの類似する刺激が同一の反応を要求する場合に起きやすい。このような運動技能の転移は正の転移と呼ばれる。逆に2つの類似する刺激あるいは同一の刺激が、両立不可能な異なる反応を要求する場合には、技能の習得を妨害することが予想される。このような運動技能の習得にマイナスの影響を及ぼす転移は負の転移と呼ばれる。

正の転移と負の転移の両方が確認できるクラフツの実験がある。1~9までのひとつの数字が書いてあるカードを各8枚ずつ計72枚用意し、同じ数字が書いてある箱に分類する課題を8試行行った。その後4つの群に分け、第1群は箱の位置が変わらない群、第2群は3つの箱の位置が変わる群、第3群は6つの箱の位置が変わる群、第4群は9つすべての箱の位置が変わる群で、それぞれ2試行行った。

その結果、同じ課題を行った第1群に比べ他の群は成績が悪くなったが、箱の位置の変更の度合い、つまり類似度が低くなるほど成績が悪くなっていた。しかし、第2群と第3群では、箱の位置を変更する前の1、2試行目よりも成績が良くなっていたのに対し、第4群では成績が悪くなっていた。第2群と第3群では正の転移が生じたのに対し、第4群では負の転移が生じたことになる。

他の研究でも負の転移が生じることが確認されているが、負の転移は数試行しか持続しないことが多く、長く持続する負の転移が確認された例は非常に少ない。

両側性転移

左手で技能練習を行った後に右手でテストを行うと、左手でも右手でも練習しなかった群と比べて成績が良くなることが知られている。このような転移は両側性転移と呼ばれている。


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