リハーサル

基本的に、ワーキングメモリの記憶時間はそれほど長くはない。記憶容量がそれほど大きくないため、外部からの情報が次々と入力されれば既存の記憶はすぐに書き換えられてしまうということを考えれば、記憶時間が短いことも理解しやすい。

人間の場合、大切だと思う情報を繰り返し声に出したり暗唱したりすることによって、記憶を保持しようとするが、これはリハーサルと呼ばれている。人間のリハーサルには2つの主要な機能があるとされており、ひとつはワーキングメモリの中で情報を保持しておく機能、もうひとつは長期記憶へ転送する機能である。

ヒト以外の動物の場合にも、例えばオペラント条件づけによって獲得した行動が、数ヶ月の期間をあけた後でも生起することを考えれば、人間と同じようにワーキングメモリと長期記憶の2つの記憶機能を持っていることがわかる。従って、動物も記憶を保持するためにリハーサルを行っていると推測できるが、動物は言葉を使わないため他の方法を使っていると考えることができる。人間のリハーサルも言葉だけに頼ったものではないことは想像できると思う。

人間の場合と同様に、動物のリハーサルにも2つの機能があると考えられている。グラントはこれを、ワーキングメモリで情報を保持するための維持リハーサルと、長期的な連合学習を促進する連合リハーサルと呼んで、これらを区別して考える必要があるとしている。


維持リハーサル

動物が維持リハーサルを行っていることを示すためには、特定の情報に対して、覚えておかなければならない文脈と忘れてもよい文脈での試行をそれぞれ十分に行い、忘れてもよい文脈下で抜き打ちテストをすることである。つまり、覚えておかなければならない文脈と忘れてもよい文脈での成績を比べる方法である。このような方法は指示的忘却と呼ばれる。

マキとヘグヴィックは、ハトの条件性弁別課題で指示的忘却を用いた実験を行っている。この実験では、見本刺激として食物を呈示するか否かの2つを用いて、数秒の遅延時間の後、赤と緑のキーを比較刺激と呈示した。正反応は、見本刺激が食物ありの場合は緑をつつく、食物なしの場合は赤をつつくというものであった。

ハトがこの課題を十分にこなせるようになった後、遅延時間中に天井灯の点灯か消灯のどちらかを挿入した。点灯の場合はその後に比較刺激が呈示され、消灯の場合は比較刺激が呈示されずそのまま試行終了となる。ハトにとって、天井灯が記銘か忘却かの手がかりとなり、これと見本刺激の2つを組み合わせると4パターンの試行になる。

ハトにこの試行を十分に訓練した後、抜き打ち検査であるプローブ試行を間欠的に挿入した。この試行は、天井灯が消灯する忘却手がかりの後に、本来は呈示されない比較刺激を呈示するものである。

その結果、記銘手がかりの試行での正答率は約90%であったのに対し、忘却手がかりであるプローブ試行では正答率は70%であった。これは記銘と忘却の手がかりである天井灯の点灯と消灯を逆にして訓練したハトでも、プローブ試行の正答率の方が低かった。

指示的忘却はハト以外でも、例えばヒトやサル、ラットなどの動物でも確認されている。

連合リハーサル

ワグナー、ルディ、ホワイトローは、ウサギによる古典的条件づけでの長期的学習においても、リハーサルが行われていることを示した。これに関連する実験では、各条件づけの試行直後にリハーサルを妨害するような「試行後エピソード」と呼ばれる刺激を与えることによって、CR(条件反応)の獲得がずっと遅くなること、さらに試行と試行後エピソードを与える間隔が短いほどCRの獲得が遅くなることを示した。

彼らは実験の結果を以下のように解釈している。


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