学習研究の方法

ここでは、学習の研究方法と共にアプローチ方法とその歴史を概観する。


観察法と実験法

学習の一般的な研究方法には観察法と実験法がある。

観察法は、自然環境でのヒトや動物の行動を観察するものであり、自然な状態でのデータが得られる。特定の経験によって、観察対象の行動がどのように変化するのかを観察するので、観察者は受け身であり、行動を制御する変数の操作はしない。よって、観察対象への負担は少ないが、本当にその特定の経験が行動を変化させたのか確認しにくいという欠点がある。つまり、相関は得られるが因果関係を特定するのは難しい。

実験法は、経験させる内容(刺激)を変化させることで、行動がどのように変化するのかを測定する。刺激は独立変数、行動の変化は従属変数と呼ばれる。つまり、独立変数の操作で従属変数がどのように変化するのかを見る。このとき、独立変数以外の条件は一定に保つことと、複数の被験対象によってその行動の変化が一般的なものなのか確認が必要となる。

実際に実験を行うときには独立変数を操作した実験群と、独立変数を操作しない統制群に分けて行われる。また、偽薬効果(プラセボ効果)や実験者効果が懸念される場合には、プラセボ群などを含めることも多い。これは二重盲検法と呼ばれる。

行動的アプローチと認知的アプローチ

行動的アプローチとは、刺激に対してどのような反応が行われ、どのような行動の変化が見られるかを観察する方法である。原因を感情や思考といった内的過程に求めない。

行動的アプローチの利点は大きく分けると以下の2つである。

1つ目は、どの行動をどのような頻度で行ったのかという客観的なデータが得られることである。内的過程は直接観察したり操作したりできないので、心理学が科学として成り立つには行動という客観的なデータが必要になる。

2つ目は、ヒト以外の動物でも研究が可能なことである。学習の研究ではヒト以外の実験対象が多く用いられてきた。その理由として、ヒトは自分が実験対象であることを知ると、意識的にせよ無意識にせよ行動の変化が起こる可能性があるからである。動物の場合は観察されていると気づかれない方法をとることが多いが、ヒトの場合は様々な問題からそれが難しい。また、年齢を重ねるごとに経験の内容がバラエティに富んでくるので、個体による行動の差が大きくなる問題もある。動物の場合はヒトが飼育するのである程度制御が可能である。

認知的アプローチでは、刺激の入力から反応の出力までの内的過程をコンピュータのような情報処理システムとして扱う。行動的アプローチと完全に対立する方法ではないため、現在では共存しているが、互いのアプローチ方法を反対する声もある。

アプローチ方法の歴史

20世紀前半における学習の研究は行動的アプローチが支配的であった。これは客観的な観察が不可能な感情や意識などの内的事象を、データとして使用することに反対したジョン・ワトソンやバラス・スキナーの影響を大きく受けている。行動主義心理学とも呼ばれており、客観的な観察が可能な外的事象のみを扱おうとするものである。また、スキナーの考え方は徹底的行動主義とも呼ばれる。

ワトソン以前は、内観法が心理学の研究法として一般的であった。内観法とは自分自身の思考や感情などの内的過程を記述し分析する方法である。これは、相当な練習が必要になる上に、同じ状況であっても心理学者によって結果が異なる可能性もあり、安易に他人の内観法のデータと比べることができないのである。このような背景からワトソンは、心理学が科学であるためには行動を観察するべきであるとし、行動主義心理学が生まれたのである。

1960年代以降は認知心理学が発展し始め、認知的アプローチもとられるようになった。この背景には、より複雑化した行動を説明するには行動的アプローチだけでは不十分であると考える心理学者が多かったためといわれている。


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