何が強化子となるのか

オペラント条件づけにおいて、何が強化子となり何が罰子となるのかという問題は科学的にも医療的にも重要な位置を占める。報酬として用意したものが強化子ではなく罰子として働けば症状が悪化してしまう恐れもある。

何が強化子となるのかについては様々な説が唱えられ議論されてきたが、ここでは代表的なものを取り上げる。


要求低減説

ハルが提唱したもので、すべての1次強化子は生物学的要求を低減させる(満たす)刺激であり、その刺激は強化子の役目を果たすというものである。物を食べたい、水を飲みたい、痛みを回避したいなどの要求は生死に関係するもので生物学的なものである。しかし、性的な刺激や人工甘味料などはなくても死に直結するわけではないが強力な強化子として働くし、実際の実験でも数多く使われてきた。

また、生物学的に必要なものでも強化子とならない場合もある。足りていない栄養素を単体で要求することは稀であり、栄養素単体では最初から強化子となることはない。その栄養素を含む食物を食べた後に体調が良くなれば、結果として強化子として働くのである。

生物学的という要素は非常に重要ではあるものの、例外も多いのである。

動因低減説

ハルは要求低減説の問題を解決するために動因低減説を推し進めた。動因低減説では、あらゆる種類の刺激作用も強すぎれば嫌悪刺激となり、刺激強度が低減するときに強化子となるとしている。

これにもいくつかの問題点がある。そのひとつとして、物理的な測定尺度での刺激強度を低減させても、強化子として働かないものが多く存在していることが挙げられる。それどころか刺激強度を上げることでより強力な強化子となることもある。

このような例を挙げるとキリがないが、室温35℃の部屋が28℃に下がれば強化子となるが、0℃の部屋が-7℃に下がれば強化子とはならないはずである。

場面間転移性の原理

ある場面で強化子となることがわかっている刺激は、別の場面でも強化子となり得るというのが場面間転移性の原理である。つまり、特定の場面である刺激が強化子となるかどうかを予測するには、他の場面で強化子となったかどうかという実績が必要となる。

場面間転移性の原理はかなり控えめな理論ではあるが、多くの事例でうまく働くことがわかっている。しかし、プレマックは例外が存在することを自身のプレマックの原理を提案するとともに指摘している。

プレマックの原理

プレマックの原理とは「より生起確率の高い行動は、より生起確率の低い行動を強化する」というものである。

プレマックの原理が提唱される以前の強化手続きの考え方は、行動(オペラント反応)と刺激(強化子)の随伴性によるものとされていた。しかし、プレマックや一部の研究者らは、ほぼすべての強化子は刺激と行動の両方を含んでいることを指摘しており、例えば食餌という刺激は摂食という行動を、水やサッカリンなどは飲水という行動を含んでいる。この事実から、オペラント反応を強化しているのは食餌という刺激ではなく摂食などの行動ではないかと考え、行動と別の行動の随伴性が強化手続きを特徴づけていると提案したのである。

プレマックはサルを用いた自身の研究で、プレマックの原理がうまく働くことと場面間転移性の原理の例外を示している。

プレマックはその後、罰に関する原理として「より生起確率の低い行動は、より生起確率の高い行動を罰する」を提案している。

いずれの原理も刺激が強化子として働くかは、2つの行動の生起頻度に依存している。プレマックの最大の貢献は、刺激が強化子となり得るかどうかの絶対的な指標を探すのではなく、それは個体によって異なる相対的なものであるという視点の転換である。

反応制限理論

例えば、制限のない自然な状態でのラットの行動を調べ、全時間のうち飲水時間が20%、走行時間が10%だとした場合、飲水と走行の時間比率は2対1となる。これを10秒の走行をするのに100秒の飲水行動をしなければならないように制限したとすると、飲水と走行の行動時間の比率は10対1となる。するとラットは制限のない状態での走行時間に近づけるように、飲水行動の時間が制限のない状態よりも増加するのである。

上の例はわかりやすいように時間や比率を調整してあるが、実際にこのような実験を行なって同様の結果が得られている。走行行動が飲水行動を強化しているわけだが、これを言い換えると「生起確率の低い行動が、生起確率の高い行動を強化している」となる。これはプレマックの原理とは真逆の結果である。

これをうまく取り扱うためにティンバーレイクとアリソンは「より制限された反応は、より制限されない反応を強化する」という反応制限理論を提案した。

反応制限理論はプレマックの原理よりも幅広い範囲に適用できることがわかっており、強化子となるかどうかを100%に近い確率で予測できるとされている。


参考書籍
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