所属意識

私たちは、会社や学校、国や地域などの集団を、まるで人格が備わっている個人のように考えることがある。特に社会的実体として認識される状況において顕著である。これは、集団を単なる個人の集まりではない「何か」として捉えていることにほかならない。

集団間態度」のページでは、内集団に対してと外集団に対してでは認識の仕方が異なっていることを述べたが、これは集団に所属しているという認識から生まれていることがわかる。「自己概念」のページでも記載した通り、自分自身に関する情報は体制化されて自己スキーマとして働くが、この自己スキーマには集団に所属しているという意識も含まれる。また、状況によって作動自己概念が異なることからもわかるように、自分がどの集団に所属しているのかと、その所属しているという意識の強さも状況によって異なる。

このページでは、集団への所属意識が個人の心理過程にどのような影響を及ぼすのかをみていく。


内集団バイアス

自分が所属している集団の成員は外集団の成員に比べ、実際には優劣の差がないにもかかわらず人格や能力が優れていると評価することを内集団バイアスあるいは内集団ひいきと呼ぶ。内集団バイアスは、内集団にポジティブな評価を求める傾向が原因のひとつとして考えられている。

内集団バイアスは原因帰属にも現れ、内集団成員の望ましい行動は内的原因に帰属されやすく、望ましくない行動は外的原因に帰属されやすい。また、外集団成員の望ましくない行為は、相対的に内集団の評価を高めるため記憶に残りやすい。このような原因帰属バイアスは究極的帰属エラーと呼ばれており、ステレオタイプの維持に影響すると考えられている。

最小条件集団

タジフェルらは、内集団バイアスが起こる最小限度の条件はどのようなものなのかを明らかにするため、最小条件集団と呼ばれる実験方法を考案した。その一つの実験では、まず実験参加者に、世の中は画家であるクレーの作品を好む人とカンディンスキーの作品を好む人に二分されるという話を聞かせ、自分がどちらのタイプであるかを評定課題の結果をもとに知らされる。これによって、それぞれのタイプを集団としたのである。そして、自分がどちらの集団に属しているか以外には何も知らされず、成員との相互作用もない中で、実験参加への謝礼に関わる得点を、クレー派の集団の1人とカンディンスキー派の集団の1人に分け与えるとしたら、どのような配分にすべきかをいくつかの組み合わせの中から選択してもらった。すると、内集団の得点が外集団の得点をわずかに上回る選択肢が好まれたのである。つまり、他に内集団の得点が高くなるような選択肢があったにも関わらず、両集団の差を保つような得点が選択される傾向があったのである。

この実験では、自分が選択した得点は他の人に知られることはないので、内集団の成員に高い得点を与えたとしても自分の得点には影響がないのである。このような状況下でなぜひいきが生まれるのかについて説明したものが、下記に示すタジフェルらの社会的アイデンティティ理論である。

ただし、内集団の成員からの見返りが期待できないことを明示したり、集団を3つにすると、行動レベルでの内集団バイアスは消失するという研究もあり、内集団バイアスが行動に表れるには集団内の相互協力性が必要であることが指摘されている。

社会的アイデンティティ理論

タジフェルらは、自分と自分の所属集団を同一化し、誇りや恥ずかしさなどの感情的意味合いが加わったものを社会的アイデンティティと呼んだ。スポーツの試合などで、自分の学校や地域、自国の選手やチームの勝敗によって喜んだり悲しんだりするのが良い例であろう。また、社会的アイデンティティを自己の属性の一つとして認識する過程に着目したものを社会的アイデンティティ理論と呼ぶ。

人は自己評価を高めるように動機づけられていると考えられているため、集団に所属していることに恥ずかしさや自己嫌悪を感じる様なネガティブなアイデンティティを持つと、所属集団の地位向上を試みたり、集団から離脱しようとする。

自己カテゴリー化理論

学生であれば、○○学校の学生としてや、学部や学科、あるいはサークルや気の合う仲間など様々な集団に属しており、自分を位置づけるのに適した集団というのは、会話の相手や文脈などの状況によって変化する。このように社会的アイデンティティが活性化しやすいのはどのような集団(カテゴリー)かを階層構造によって説明した理論を、自己カテゴリー化理論と呼ぶ。

自己カテゴリー化理論によると、外集団の人間と自己との違いを際立たせ、内集団の人間と自己との類似性を明確にする集団が、社会的アイデンティティが活性化しやすい集団となる。


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