プライミング効果

事前に特定の刺激に接することで、特定の知識を活性化させることをプライミングと呼び、プライミングによって活性化した知識や概念が後続の情報処理に影響を与えることをプライミング効果と呼ぶ。また、このプライミングによって用いられる刺激はプライムあるはプライム刺激と呼ばれる。プライミングは特定の知識を活性化させるだけではなく、その知識と同じカテゴリーに属する知識も活性化されると考えられている。


ネットワークモデル

プライミング効果を理解するには、情報処理の基盤となる記憶の構造をモデル化したネットワークモデルで考えるとわかりやすい。

人間の記憶には膨大な情報が蓄えられているが、これらは関連のあるもの同士がネットワーク状になっていると考えられている。このようなネットワークモデルでは個々の情報はノードと呼ばれ、ノード同士を結び付けている要素はリンクと呼ばれる。

ある情報が呼び出されたとき、その情報とリンクが形成されている情報は記憶の中で取り出されやすい状態になり、情報が取り出された状態や取り出されやすい状態は知識の活性化と呼ばれる。つまり、特定の知識が活性化すると、その知識と結びつきのある知識が次々と活性化するため、これらの知識は想起しやすい状態あるいはその活性化した知識を用いた情報処理が行われやすい状態になる。

各情報がどのように結びつき、その結びつきの強さがどの程度なのかは個々人によって異なるため、外部からの刺激が同一であっても活性化しやすい知識は人によって異なる。一般に活性化しやすい知識や概念は、その人にとって重要なものや最近使用されたものである。このような特定の知識や概念が活性化しやすいことは、接近可能性が高いという。

自宅にいるときと学校や会社にいるときとでは、活性化する自己概念(作動自己概念)が異なることも、プライミングや接近可能性という概念を用いることで説明できる。

直接プライミングと間接プライミング

プライミングは大きく分けると直接プライミングと間接プライミングがある。

学習時に提示した単語と同じ単語の一部の文字を空白に置き換えた単語完成テストなど、プライムとターゲットが同じ場合に見出される効果は直接プライミング、または反復プライミングと呼ばれる。例えばこのページを見ているあなたであれば、「プ○○○○グ効果」の「○」の文字をすぐに埋めることができるであろう。

これに対して、プライムとターゲットが異なる場合に示される効果を間接プライミングと呼び、その中でもプライムとターゲット間の意味的関係に基づくものは意味的プライミングとも呼ばれる。例えば「リ○○」という文字に対して、「果物」や「赤い」というプライムを与えられると「リンゴ」を思い浮かべやすいが、「音楽」や「パーカッション」というプライムなら「リズム」を思い浮かべやすくなる。

イデオモーター効果

プライミング効果は言葉や概念だけに限られたものではなく、行動にも影響を与える。

ジョン・バルフらの実験では、学生たちに5つの単語のセットから4単語の短文を作る課題を行ってもらった。このとき、ある群には高齢者を連想させるような単語を混ぜておいた。この課題の後、学生たちには他の実験のために別の部屋に移動してもらったが、このときの廊下を歩く速度をこっそりと測定すると、高齢者を連想させる単語に触れた群は、他の群よりも明らかに歩く速度が遅かったのである。

この実験では、まず高齢という観念が活性化されるプライミングが行われ、その高齢という観念から連想されるような行動を活性化させるという2段階のプライミングが行われていると考えられる。

ある行動を考えるだけでその行動を取りやすくなることはイデオモーター(観念運動)と呼ばれるが、この実験後の調査で単語の共通性に気づいた学生が1人もいなかったことから、学生たちは高齢という観念が意識に上らなかったことになる。つまり、意識できない程度の観念の活性化においても、行動を変えるほどの影響力を持っているということである。

このイデオモーター効果は、逆向きにも働くことが知られている。ドイツの大学で行われた研究では、学生たちに毎分30歩のペース(通常の歩行速度の3分の1)で部屋の中を5分間歩いてもらい、その後で問題を出されると、高齢に関連する単語をより素早く認識するようになった。これは自分の行動がプライムの役割を果たし、その行動に関連する知識や概念が活性化され、後続の情報処理に影響を与えていると考えることができる。

同化と対比

上記のイデオモーターのように、プライムと同じ方向へ影響されることは同化と呼ばれるが、プライムとは逆の方向へ影響されることもあり、これは対比と呼ばれる。同化と対比のどちらが生じるかを決定する要因は、今のところプライミングへの気づきとプライムの性質が考えられている。つまり、プライミングの影響に気づいている場合には対比が生じやすく、気づいていない場合には同化が生じやすい。またプライムが抽象的であったり、極端なものでなければ同化が生じやすく、具体的で極端なものであれば対比が生じやすい。

プライミングと日常

このページではイデオモーター効果を取り上げたが、プライミングは様々な社会現象とも関連しており、社会心理学全般に及ぶと言っても過言ではないほど重要な概念である。

プライミングを広い意味で捉えると、我々は朝起きてから夜寝るまで、あるいは寝ている最中にも、様々なものや現象から影響を受けていることがわかる。目に映るもの、聞こえる音、手で触れるもの、匂い、味など、あらゆる感覚を使って膨大な数のプライミングを受けているともいえる。しかもこれらは無意識に起こり、活性化された知識や概念が新たなプライムともなり得る。

これは見方を変えると、わずかな変化でも人は大きく変わる可能性を持っていると考えることができる。自分の行動が変われば、それを見た周りの人の行動も変化するし、周りの人の変化を見ることによって、再び自分の行動も変化する。人は周りの人から影響を受けると同時に、周りの人へも影響を与えているのである。


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