自己概念
自分自身に関する知識や特徴を把握する概念を自己概念と呼ぶ。自己概念は多面性を持つと同時に、個々人によって異なる。
人が大勢いるにぎやかな場所でも自分の名前が呼ばれると、それを聞き分けることができる。これはカクテルパーティ効果と呼ばれる現象であるが、人は自己を他の対象と違う特別な存在として捉えていることがわかる。
自己スキーマ
自分にとって重要な知識領域では、豊富な知識が体制化されていて、スキーマとして働くと考えられている。これを自己スキーマ、またはセルフスキーマと呼ぶ。自己スキーマの中では情報処理の速度や判断が速くなり、記憶にも優れている。自己スキーマに関連する情報処理と自己スキーマに関係のない情報処理とでは、使用する脳の部位が異なることが知られている。
先にも示したカクテルパーティ効果など、自己スキーマは意識的に注意を向けていない場合にも、関連する情報への感受性を高める。
自己スキーマは自分だけではなく、他者認知においても利用される。つまり、自己スキーマの枠組みに沿って他者を判断しやすいのである。
作動自己概念
最近使用された自己概念や頻繁に使用される自己概念はアクセスされやすい状態にあり、このような状態は情報が活性化されているといわれ、活性化された自己概念は作動自己概念と呼ばれる。自分の家にいるときと会社や学校にいるときとでは、活性化している自己概念が異なるため、自分の置かれている環境や状況によっても、作動自己概念は異なる。
活性化されている自己概念がことなるということは、他者認知にも影響が出ることになる。我々は、どんな状況にいても同じように他者を認知していると思いがちであるが、活性化されている自己概念によって他者に対する判断が変わることもある。
重要他者
自分にとって大切な人、重要な位置を占める人を重要他者と呼ぶが、作動自己概念の変化に大きく影響する要因の一つがこの重要他者である。重要他者は、家族や恋人あるいは尊敬する人物だけではなく、極端に嫌いな人物も含まれる。また、好意の度合いに関係なく、例えば学校の教師や会社の上司、先輩など、自分にとって大きな影響力を持つ人物も重要他者となる。
自己概念の形成が自分の外部からの情報、つまり周りの環境による部分が大きいこと考えれば、他者との関係によって規定される部分も少なくないことがわかる。自分が好意を持っている相手に会えば、どうすれば相手からの印象を良くすることができるかという知識が活性化されるかもしれないし、嫌いな人間に会えば攻撃性に関連する知識が活性化するかもしれない。もしこれらの知識が頻繁に活性化されるようになれば、自己スキーマの一部となる可能性もある。
重要他者は作動自己概念だけではなく、自己概念そのものを変化させる要因ともなる。
自己知覚
日常生活において、我々は必ずしも意図した行動をしているわけではない。なぜ自分がその行動をしたのか説明できないこともある。このようなときに、他人を理解するのと同じ方法で自分自身を理解することがあり、これを自己知覚と呼ぶ。
自己知覚の場合にも自己概念の影響を受ける。「自分はこういう性格だから・・・」「自分はこうあるべきだ」という信念などが、自分の行動の推論に使われることもある。
アイデンティティ
自分自身の特性や能力などから、自分と言う個人が他者とは異なる存在であると認識することを個人的アイデンティティと呼び、自分と自分の所属集団を同一化し、自分自身を集団の一部として自覚し行動することを社会的アイデンティティと呼ぶ。
- 『社会心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2010)
- 『Social Psychology: Goals in Interaction (6th Edition)』 Pearson(2014)
- 『心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2004)
- 『パーソナリティ心理学―全体としての人間の理解』 培風館(2010)
- 『自己の心理学を学ぶ人のために』 世界思想社(2012)