メディア効果論

マスメディアが、人々の行動や意識に及ぼす影響に関する理論あるいは議論をメディア効果論と呼ぶ。

マスメディアとは、不特定多数の受け手に向けた情報伝達手段となる媒体(メディア)を指している。日本語で大衆媒体とも呼ばれる。テレビや新聞、雑誌などがマスメディアの代表的なものであるが、近年ではSNSや動画投稿サイトの普及によって、個人が送り手となるマスメディアもある。

このページでは、マスメディアが発する情報が社会や個人に対してどのような影響をもたらすのかをみていく。


強力効果論と限定効果論

マスメディアが大きく発展し始めた20世紀初頭から1930年代にかけて、マスメディアのメッセージは態度や行動を意のままに動かすほどの影響力をもっていると考えられていた。このような、マスメディアのメッセージが受け手に直接強烈なインパクトをもたらすとする理論は強力効果論、または弾丸効果論と呼ばれている。

一方、1940年のアメリカ大統領選挙の際に行われたラザースフェルドらの調査によって、マスメディアの力は強力効果論ほど強くはないとする限定効果論が広まっていった。マスメディアから発せられる情報がオピニオンリーダーを媒介し一般大衆に影響を与えるという2段階の流れが提唱され、マスメディアの情報が直接一般大衆に影響を与えるわけではないことが明らかにされたのである。また、人々が既存の知識や態度に調和する情報に接触し、調和しない情報との接触を回避する傾向を持つ選択的接触という現象が注目され、マスメディアの情報は態度や行動を変化させるというよりも、補強する方向に働きやすいという考え方に変わっていった。

議題設定効果

マスメディアのメッセージが人々を意のままに動かすほどの影響力を持たないにしても、限定効果論が示すほど弱いものなのかという疑問は常にあった。そんな中、1968年のアメリカ大統領選挙の際にマコームズとショーが行った調査研究では、政府が取り組むべき問題について、有権者が重要だと思う争点とメディアが取り上げた争点の報道量との間に、きわめて高い順位相関がみられたのである。このことから、マスメディアが特定の情報を強調すればするほど、その情報に対する人々の重要性の認識が高まるという議題設定効果が提唱されたのである。これは、人々が世の中のできごとについての情報のほとんどをマスメディアに依存しているため、マスメディアが強調する情報が主要な争点として人々に認識されるというごく単純な発想を、この研究は実際に示したのである。

議題設定効果は、マスメディアのメッセージが「どれほどの影響をもたらすのか」ではなく「どのような影響をもたらすのか」という別のアプローチ方法を示したという意味で、マスメディアに関する研究に大きな転換を与えたといえるだろう。

培養効果(教化効果)

テレビドラマなどのフィクションに反復的に接することで、現実認識がテレビに描かれる現実象に近いものとなってしまうという現象を培養効果、または教化効果と呼ぶ。フィクションでは現実以上に暴力や犯罪のシーンに満ちているため、現実社会においてもそれらが頻繁に行われているというリアリティをもったものとして認識されてしまうのではないか、という仮説である。ガーブナーらの研究によると、長時間のテレビ視聴者ほどテレビよりの回答、すなわち暴力事件や犯罪に巻き込まれる可能性を過大評価することが確認されている。

主流形成効果

通常は、居住地域や職業、性別や年齢などが違えば日常経験が異なるわけだから、社会に対する認識も異なることが予測できる。しかし、短時間のテレビ視聴者に比べ長時間視聴者の方が、テレビが提示する社会認識が支配的となるため、個人属性による社会認識の変動が縮小すると考えられる。これは主流形成効果と呼ばれている。

ガーブナーらは、テレビの短時間視聴者と長時間視聴者の間で「犯罪に対する不安は自分にとって深刻な問題だ」と回答した割合を収入レベル別に分けた結果、収入が中程度から高い人たちでは短時間視聴者よりも長時間視聴者の方が犯罪に対する不安は深刻な問題であると回答した。しかし、低収入の人たちではこのような培養効果はみられなかった。これは低収入の人たちが、中程度あるいは高収入の人たちと比べ、テレビの視聴時間に関係なく不安傾向が高かったことを考えれば、テレビの長時間視聴によって画一的に認識する方向に働いていることを示している。つまり、主流形成効果が確認されたということである。

フレーミング効果

報道の枠組みの呈示の仕方によって視聴者に異なるインパクトが生じることをフレーミング効果と呼ぶ。同じ事件や事故でも、どこに重点を置き、どの視点で描くかによって、視聴者の受け取り方は変わってくる。

アイエンガーによると、マスメディアがある問題を扱う場合、エピソード型フレームとテーマ型フレームの2種類のフレームがあるという。エピソード型フレームは個々の具体的な事例を描く報道の枠組みであり、テーマ型フレームは統計データや政府の政策といった抽象的な内容を描く報道の枠組みである。実際には両方の要素が含まれることが多いが、映像が中心となるテレビなどのメディアの場合は、エピソード型フレームに重点がおかれることが多く、エピソード型フレームでは問題の原因や責任が構造的な要因ではなく当事者である個人に帰属されやすいことを、アイエンガーは研究によって示している。

フレーミング効果は議題設定効果と似ているが、マスメディアが視聴者に対してある争点を認知しやすくするのが議題設定であり、その争点について視聴者が評価や判断するときに考慮する内容をマスメディアが形作るのがフレーミングであるといえる。また、マスメディアの情報が後続する視聴者の情報処理に影響を与えるという意味では、どちらもプライミング効果の一種として捉えることもできる。

アジア病問題

最後に、フレーミング効果の検討のためにカーネマンとトヴェルスキーが作成した「アジア病問題」という選択問題を紹介したい。

アメリカは今、アジア病という伝染病の大流行に備えており、放置すれば死者数は600人になると見込まれている。対策として2つのプログラムが提案されており、その効果は以下のとおりである。

上記の2択では、圧倒的多数でプログラムAが選ばれた。では次の2択はどうだろう。

最初の2択のA・Bと比較すると、内容はまったく同じであることがわかる。しかし、2番目のフレームでは大半の回答者がプログラムbを選んだのである。


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