選択的注意
複数の情報があふれているとき、その中から選択的に注意を向けることを選択的注意と呼んでいる。大勢の人がいるにぎやかな場所でも、自分の名前や自分に関連する言葉、また相手との会話などは容易に聞き取ることができる。これはカクテルパーティー効果と呼ばれ、選択的注意の一つとして古くから知られている。初期の選択的注意研究の多くは、左右の耳に異なる音声刺激を同時に聞かせる両耳分離聴という実験によって行われてきた。
早期選択説と後期選択説
心理学者のチェリーは、両耳分離聴の実験を行い、一方の耳だけに注意を向けさせ、聞こえてきた言葉を復唱させた。その後もう一方の耳から聞こえてきた言葉を報告させると、ほとんど報告することができなかった。この結果から注意を向けなかった情報は、入力の早期段階でフィルターにかけられ、失われてしまうと考えた。これを注意のフィルター説と呼ぶ。また、注意を向けなかった情報が早期の段階で失われることから、早期選択説とも呼ばれる。
心理学者のブロードベントは、実験参加者の左右の耳にランダムな数字を聞かせ、順不同に数字を再生させるという実験を行った。実験の結果から、左右の耳の選択フィルターを切り替えることによって、処理される情報が選択されていると考えた。
しかしその後、トリーズマンの実験によると、注意を向けていない耳から聞こえてくる情報は、完全に失われるのではなく、意識しないまま意味処理がなされていることが判明した。注意を向けていない耳から聞こえる情報が減衰されることから、これは注意の減衰モデルと呼ばれる。
その後の実験でも、注意を向けていない耳から聞こえてきた自分の名前を、実験参加者は認識することがある、ということが明らかにされている。これは注意における情報選択が既有の知識に依存していることを示しており、すべての情報は意味処理まで分析が行われた後に、意識される情報が選択されているということである。これを、後期選択説と呼ぶ。
負荷理論
ラヴィはボトムアップ処理とトップダウン処理の両方とも重要であると考え、実験から知覚レベルでの情報処理の負荷によって、注意の働きが変わるとする負荷理論を提案した。入力される情報量が少ない低負荷条件では、注意を向けていない情報にも意味処理が行われるが、後から必要な情報を選択する際にそれらに妨害される。逆に情報量が多い高負荷条件では、注意を向けている情報のみが処理されることが実験によって示された。
- 『認知心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2010)
- 『認知心理学 (放送大学教材)』 放送大学教育振興会(2013)
- 『錯覚の科学 (文春文庫)』 文藝春秋(2014)