属性推論

私たちは、他者がどのような内的特徴を持っているかを直接目で見ることはできないため、その人の行動や発言から内的な属性を推論している。このとき、他者の行動やその結果を見て「なぜそのような行動を取ったのか」「このような結果が生じたのはなぜか」などの原因を探ることになる。このように行動や現象の原因を推論することは原因帰属と呼ばれる。原因帰属にはそのときの状況が大きく影響を与えるが、印象形成のモデルではどのような状況で行われたのかは十分に考慮されていない。このような原因帰属という視点で理論化されたのが帰属理論であり、代表的なものとしては対応推論理論と共変モデルがある。


対応推論理論

ジョーンズとデイヴィスは、他者の行動情報から内的属性を推論する過程に関する理論として対応推論理論を提唱した。この理論は、他者が実際に行った行動とそれ以外の行動を比較することで、行動意図を推測し内的属性を推論するものであり、このとき意図的でない行動や結果は考察の範囲外となる。つまり、選択可能な複数の行動と実際の行動との間にどのような結果の違いが見られるかによって、行動意図を推測することになる。したがって、選択可能な行動がどれも同じ結果をもたらす場合は、行動意図を推測することは困難になる。

対応推論理論は、実際に選択された行動のみに伴う非共通効果に着目した理論であるともいえる。

ジョーンズとデイヴィスの理論は、行動がその行為者の資質をどの程度反映しているかという「対応」を示しているが、その後この対応という概念を発展あるいは精緻化したモデルがいくつか登場している。例えば、リーダーとブルーワーは判断対象となる資質の性質によって行動との対応図式が異なるとしており、資質による行動の制約の大小によって「部分的制約図式」「階層的制約図式」「完全制約図式」の3つを提示した。

部分的制約図式は、性格特性などが判断対象となる場合で、特定の資質が一次元上で表され、その強弱によって行動の制約範囲が決まる。つまり、資質がその次元上で中庸にある場合よりも両極に位置する方が行動の制約は大きくなる。

階層的制約図式は、能力や技能などが判断対象となる場合で、資質は高低によって表される。資質の高い者ほど行動の制約が少なく、低下するにつれて制約が大きくなる。

完全制約図式は、嗜好や個人的なスタイルが判断対象となる場合で、資質によってほぼ完全に行動が制約される。

段階モデル

行動の意図と行為者の資質との対応過程を段階的により詳細に示したものが段階モデルである。代表的なものとしては、トループの2段階モデルとギルバートの3段階モデルがあるが、ここでは3段階モデルを取り上げる。

3段階モデルでは、まず観察した行動をカテゴリー化して意味づけを行う行動の同定段階、それに対応する資質によって特徴づける属性推論の段階、最後に状況を考慮して修正を行う修正段階からなる。同定段階と属性推論の段階は、ほぼ自動的に処理され、最後の修正段階は認知資源を必要とする意識的な統制過程が想定されている。つまり、認知資源が枯渇していると最後の修正過程が不十分になることを示している。

ただし、どの段階が自動的なのか意識的なのかについては、現在でも議論が続いている。

共変モデル

人の行動のすべてが必ずしも自分の意志で行われているとは限らない。例えば、やりたくない仕事だが上司の命令で仕方なくやらされている場合などである。このとき、行為者の行動だけから資質を推測するのは、明らかに誤りが生じる。上司の命令で仕方なくやらされているという環境要因も含める必要がある。

対応推論理論は、観察した行動からその行為者の資質を推測する過程であったのに対し、人の行動や結果の原因が行為者にあるのか環境にあるのかを帰属させる過程を示したのが、ケリーの共変モデルである。

このモデルでは、弁別性、一貫性、合意性という3つの情報をもとに原因が定位するとしている。弁別性とは、対象の有無による反応の違いで、その対象以外の前では別の反応をする場合は「弁別性が高い」となる。一貫性とは、他の状況でもその対象に対して同じ反応をするか否かで、同じ反応をする場合は「一貫性が高い」となる。合意性とは、その対象に対して他の人も同じ反応をするのか否かで、同じ反応をする場合は「合意性が高い」となる。

原因の帰属先は人、実体、状況の3つが想定されている。人は判断対象のことであり、実体は判断対象が接する人や物などで、状況とは判断対象の状態や外部の状況である。

弁別性一貫性合意性帰属先
実体
人と実体
状況(外部)
状況(判断対象)
人か実体
帰属できない
帰属できない

因果スキーマ

共変モデルが機能するためには、上記で示したような多様な情報が必要となるわけだが、これらすべての情報を入手することは現実的には困難である。しかし、私たちは不十分な情報でも、それが正しいか否かは別として原因を帰属させることができる。ケリーはこの問題に対して、因果スキーマという概念を導入した。

スキーマとは知識を体制化する枠組みのことであり、因果スキーマは因果関係に関する判断枠組みである。ケリーは、事前に因果関係に関するパターンを学習しており、あいまいな情報や不十分な情報でも原因を推論することが可能であると考えたのである。

因果スキーマでは、必要条件と十分条件の枠組みが想定されている。必要条件とは、特定の事象を生起させる複数の原因がすべて存在することで結果が生じるもので、十分条件とは、たったひとつの原因が存在すれば結果が生じるものである。

ケリーはこのような枠組みからいくつかの帰属原理を提唱しており、その中でも重要なものとして割引原理と割増原理がある。割引原理とは、ある結果を生じさせる原因が複数存在していても、1つの原因を重視することによって他の原因の重みが小さくなるというものである。例えば、子供の頃から高い能力を示していたスポーツ選手について、才能という面ばかりが注目され、努力によって能力が高められたという原因が軽視される場合などである。

割増原理は、結果が生じるために複数の原因が必要であるにも関わらず、いくつかの原因が不在でも結果が生じた場合、存在していた原因の果たす役割が大きくなるというものである。例えば、困難な状況下でものごとを達成したとき、その人の能力は割増され高く評価される場合などである。

対応バイアス

帰属理論における規範的モデルでは、情報さえ与えられれば合理的な判断を下すことが想定されているが、現実の帰属過程ではさまざまなバイアスが存在しており、必ずしも合理的な判断が行われるわけではない。

共変モデルでは状況の違いによって帰属先が異なることが示されているが、実際には状況の影響を十分に考慮せずに、行為者の資質に帰属させる傾向が強いことがわかっている。この傾向は、行為者の資質との対応を過大視することから対応バイアスと呼ばれている。対応バイアスはきわめて根強いことから根本的帰属エラーとも呼ばれている。

対応バイアスの原因としてギルバートらは、以下の4つの要因をあげている。

対応バイアスの消失

上述した通り、対応バイアスはきわめて根強いバイアスであるが、いくつかの研究ではこのバイアスが弱まるあるいは消失する場合があることが示されている。

トループらの研究では、状況要因を目立たせた場合、対応バイアスが消失することが示されている。つまり、状況の制約に注意が向けられることによって、行為者の資質との対応が弱まったわけである。

フェインらの実験では、外部から強制された行動については対応バイアスが生じる(強制されたという状況は無視される)が、自分の評価を上げるためなど行動の背景に別の動機があると推測される場合は、対応バイアスは減少することが示されている。行動と資質の結びつきは必ずしもひとつではなく、行動の動機によって資質との結びつけ方は異なるのである。強制された行動からは、行為者がその行動を望んでいるのか望んでいないのかは推測することができないため、強制されたという状況は無視されるのではないかと考えられる。

文化差

対応バイアスは根本的帰属エラーとも呼ばれていると上述したが、最近の研究では対応バイアスの生じ方は文化によって異なることが示されている。

原因帰属の研究でよく用いられてきた方法に、実験参加者にエッセイを読んでもらい書き手の態度を推測する実験がある。エッセイの内容はある争点に賛成または反対の立場で書かれており、実験参加者には「このエッセイは、賛成(反対)の立場で書くように強制されたものである」などの情報を与えることで、帰属傾向の違いを検証するものである。因みに、先のフェインらの研究結果でも見た通り、外部から強制されたという条件だけでは対応バイアスは消失しない。これはアメリカだけではなく東アジア諸国でも同様である。

チェとニスベットの研究では、あらかじめ決められた立場でエッセイを書く経験を事前に実験参加者にしてもらうと、韓国人では対応バイアスが消失するが、アメリカ人では影響を受けないことが示されている。

また、ミヤモトとキタヤマの研究では、日米の大学生において、エッセイの説得力が高い場合には両者ともに対応バイアスが生じるが、説得力が低い場合には、日本人では対応バイアスが減少するのに対して、アメリカ人では対応バイアスが維持されることが示されている。

このような結果は、個人主義的傾向のある文化と集団主義的傾向のある文化との違いによるものではないかと考えられている。個人主義では、個人の資質や態度といった内的側面に行動の原因があると考え、集団主義では、規範や社会的圧力といった状況要因に行動の原因と考えるというわけである。

もし、文化の違いによって対応バイアスの有無が異なるのだとすれば、個人主義あるいは集団主義の特徴に注意を向けやすく、解釈の仕方もそれぞれの考え方に近づくわけだから、対応バイアスは部分的に確証バイアスに起因しているといえる。


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