産業の長期均衡
「生産要素と生産関数」のページでも見たように、ミクロ経済学で「長期」というと、すべて生産要素の量を変えることができる期間を指している。これは、ある産業の長期均衡を見た場合にも似たような概念が用いられる。
産業単位での「長期」とは、企業がその産業に対して自由に参入したり退出したりでき、どの企業も同じ技術を利用できるほどの長い期間を指している。参入・退出には、その準備などである程度の期間が必要になるため、短期においては参入・退出は制限される。技術については、長期的に見れば最も効率的な技術が産業全体に知れ渡り利用されると考えられるからである。
機会費用
ある産業に企業が参入してくる理由は、他の産業よりも高い利潤が期待できるからである。逆に企業その産業から退出する理由は、他の産業のほうが高い利潤が期待できるからである。つまり、
ある産業に参入した場合の「他の産業の利潤」というのは、「他の産業に参入していれば得られるはずだった利潤」という意味で機会費用と呼ばれる。上の式を移行すれば、
産業の長期均衡価格
この式の両辺を生産量で割ると、「売上 / 生産量」は生産物1単位あたりの価格となり、「(費用 + 機会費用) / 生産量」は長期平均費用と呼ばれ、Long Avarage Cost の頭文字をとってと表記される。つまり、
上図の左の点は、産業全体の短期の均衡点である。このときの個別の企業における長期の限界費用と長期平均費用が右の図になっており、生産量がだとすると、価格と長期平均費用の間には差があることがわかる。これは生産物1単位あたりの超過利潤にあたる。
このような超過利潤があると産業に参入が起こり、上図の左の供給曲線は右にシフトするため、産業全体では生産量が増加し価格は下落する。これを右の図の個別の企業で見ると、価格が長期平均費用の最低値まで下落する。これが、その産業への参入・退出が止まる産業の長期均衡状態である。また、それは長期平均費用の最低値でもある。