認知発達

発達心理学では時間経過に伴う心的・身体的機能の変化を重視するが、認知心理学ではそれぞれの時期における認知機能のメカニズムが重視される。

認知発達の遺伝と環境

認知機能に限らず人間の発達には、遺伝などの内的要因と、環境や学習による外的要因とが関わっている。遺伝によるものなのか環境によるものなのかという議論は昔から存在しているが、近年では、機能の種類によって遺伝と環境がどのように影響しているかは異なるという相互作用説がとられる傾向が強い。


生得的知識

人間の知識は種として生まれつきもっている知識である生得的な知識システムから発生しているとするのが、認知科学的な知の発達の見方である。

乳児におけるこの核となるシステムは、領域固有であり課題固有あるとされる。領域固有とはある特定の領域において、他の領域とは違うメカニズムをもっていることで、課題固有とはある特定の問題のみを扱うことである。その核となるシステムを組み合わせて徐々に高度な作業を行えるようになっていくのである。

具体的な例として、台の上に動物のおもちゃを乗せスクリーンで隠し、スクリーンを上げた時におもちゃを1つ見せるときと2つ見せるときの乳児の反応を観察する実験がある。乳児は意外なものを長く見る傾向があるので、スクリーンを上げたときにおもちゃが1つの場合を何回か見せた後に2つのおもちゃを見せると、おもちゃが2つあることを意外だと思い、長い時間見ている。

この実験で乳児は、記憶が維持されること、2という数を理解していることがわかる。他の実験でも乳児は3くらいの数は直感的に理解していることがわかっている。ただそれ以上の数を把握するのは困難であり、また数えるものが1つのまとまりでなければならず、積木の重なりなどは混乱してしまう。

大きな数同士を比べる課題では、8個と16個、16個と32個などの組み合わせは区別可能だが、8個と12個など近い数は区別できないので、区別できるかどうかは比率が重要なようである。これは大人が直感的に数を比較する場合と似ている。

大人に、同時に動くいくつかのものを追跡する課題を与えると、同時に多くは追うことができず、4つくらいが限界だとわかっている。これは乳児が把握できる数と同様である。

ピアジェの発達理論

古典的な認知発達理論としてピアジェの研究がある。ピアジェは認知発達を構成的なものとしてとらえ、4つの発達段階からなると考えた。この4つの発達段階が生じる年齢には個人差はあるが、順序は変わらないとされている。

全体構造としては、すでにもっている動きやたまたま生じた動きを繰り返すことで、新たな対象に適用されたり、新たな組み合わせが生じていく。それが内面化されていくことで、実際に感覚や運動を伴わなくても、頭のなかでイメージして操作することができるようになっていく。

感覚運動段階 0〜2歳頃

感覚と運動の活動によって対象の認知を行う段階である。

最初の1ヶ月は、生まれつき持っている原始的な反射行動によって、外部からの刺激に反応する。

1〜8ヶ月頃までは、同じ行動を繰り返すことでシェマと呼ばれる概念(スキーマ)を形成し、しだいに自分の快になるように行動の修正が行われる。

8ヶ月以降は、意図的に対象に働きかける行動が可能となり、目的と手段とを結ぶ関係が成立する。また、自分の行動と対象の変化との関連に気づいて、様々なことを試したりして試行錯誤することで学んでいく。

前操作段階 2〜7歳頃

頭のなかの表象のレベルで思考することができ、目の前に対象がなくてもイメージする事ができる段階である。その時の表象は断片的なイメージであり、イメージ間のつながりはうまく表すことは出来ない。以前に見たものを別の時間・場所で再現する遅延模倣という行動も行われる。

自分と周りとの関係をもとに、外界について理解しようとするが、自分を中心とした視点しか取ることができず、自己中心的な傾向が強い。

具体的操作段階 7〜12歳頃

活動が内面化され、論理的思考が可能になる段階。物事を逆の順序で実施することが出来るようになり、具体的なものを扱う場合に限り、元の状態を再現することが出来る、操作の可逆性が身につく。また、自分自身を他者の立場におくことができるようになる。

物が別の形や長さになっても、元の量と同じであるという認識が可能となる。

形式的操作段階 12歳以降

具体的なものについて考えるだけでなく、論理やイメージのみで複雑な推論を行うことが出来る段階。抽象的な思考操作が可能となり、「もし〇〇なら」という仮説演繹的な思考も行えるようになる。

様々なものごとの組み合わせによって幅広い活動が可能となり、大人の思考へと発達する。

ヴィゴツキーの最近接領域説

ヴィゴツキーは、認知機能の発達には社会的・文化的な関わりが重要であるとする発達の最近接領域という考え方を提示した。

発達の最近接領域とは、独力で問題解決が可能な水準と、独力では問題解決できない水準との間の領域のことである。独力で解決出来ない問題でも、周りの人間との社会的相互作用によって、自分自身でできる以上の能力を発揮でき、次第に独力でも解決できるようになる。ヴィゴツキーはこのような社会的相互作用が、発達に大きく影響を与えているとしている。


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