ステレオタイプ

社会的カテゴリーや集団に属する成員に対して、一般化もしくは固定化された信念やイメージをステレオタイプと呼ぶ。

ステレオタイプは、多くの人に浸透しているある集団に対する先入観や思い込み、固定観念としてとらえ研究が行われてきた。ただし、ステレオタイプを個人の信念体系として、情報処理を単純化して認知的負担を減らすための機能として考えると、一種の認知バイアスとしてとらえることができる。近年では、このような認知的アプローチで研究が行われている。


ステレオタイプの形成

カテゴリー化

ステレオタイプの形成過程のベースとしてカテゴリー化が存在する。

人は社会的地位や集団、個人のもつ特徴などに対し、経験や知識からカテゴリー化が行われ、そのカテゴリーの特徴やイメージが形成される。そして新たな個人に対して、どのカテゴリーに属する人間なのか検索が行われ同定されることで、その個人に対するイメージ、つまりステレオタイプが形成される。

カテゴリーは性別や国籍、会社や学校などの集団、役職や職業などの社会的地位といった一般的なものから、顔などの外見的特徴によってもなされることがあり、個人によって異なることも多い。従って、ある集団に対するイメージは、自分の所属する集団内で一致するとは限らない。

また、各個人は同時にいくつものカテゴリー化の対象となりうるが、どのカテゴリーが生起するかはカテゴリーの想起のしやすさや、類似度に依存する。

一般的に、同じカテゴリーに属するもの同士は類似性を過大視する同化傾向が強く、異なるカテゴリーに属するものはその違いを過大視する対比傾向がある。その結果、カテゴリー間のイメージは極端化され中間部分が空白となるので、よりステレオタイプが顕著になりやすいのである。

内集団と外集団

カテゴリー化の中でも、自分が属している集団である内集団と、自分が属していない集団である外集団という分類は重要視される。

社会的アイデンティティ理論によると、人はひとりの個人として自己を特徴づける個人的アイデンティティの他に、所属する集団の一員として自己を定義する社会的アイデンティティをもっている。社会的アイデンティティは自分がどの集団に属しているかを示すだけではなく、自分をどのように理解し考えているかを示すものでもある。

そのため、自分と自分の所属する集団を同一化する傾向があり、自尊心を維持するために外集団との差別化を図る。その結果、内集団に対して高い評価を与えたり、好意的な態度や行動をとる傾向が強くなる。これは内集団バイアス、または内集団びいきと呼ばれる。内集団バイアスは、外集団を相対的に低く評価することでもあるので、偏見や差別などのステレオタイプを生み出す要因にもなる。

自分がどの内集団に属するかは、カテゴリーの想起のしやすさによって異なる。普段の仕事では所属部署や会社というカテゴリーを内集団としている場合でも、海外出張などで日本人と出会うと日本というカテゴリーを内集団とする場合もある。

外集団均質化効果

内集団は比較的多様なものの集まりとして認識されるが、外集団では類似性の高い人々の集まりで均質的だと見なされる傾向がある。これは外集団均質化効果と呼ばれ、競争や対立によって集団間の境界が明瞭になる状況や、接触の少ない集団に対して顕著に現れることがわかっており、ステレオタイプの要因のひとつとなっている。

均質化は内集団においても起こることがあり、地位の低い集団や規模が小さく少数派である集団などで、自分の社会的アイデンティティの拠り所として所属している集団を強く意識する場合に生じやすい。

錯誤相関

統計的に相関がゼロかそれに近い値を示すにもかかわらず、相関があるように知覚されることを錯誤相関と呼ぶ。錯誤相関は「この集団には、このような人が多い」というような見方を作り上げ、ステレオタイプの形成に関係している。

一般には多数派よりも少数派の集団に対して錯誤相関が生じやすく、ステレオタイプが形成されやすい。これは多数の事例よりも少数事例の特異性が高く、記憶や印象に残りやすいために生じると考えられている。

ステレオタイプの維持

一度形成されたステレオタイプを消去するのは容易ではない。ステレオタイプに反する事例を示されても例外と見なしてサブタイプ化され、ステレオタイプは維持されることが多い。

また、ステレオタイプに一致する情報に注意が向いてしまい、ステレオタイプが強化されてしまうという確証バイアスによる影響も示されている。

ステレオタイプの抑制

ステレオタイプは意識的に抑制できることが示されており、特に偏見に結びつくようなステレオタイプを意識すると、それを抑制しようとする力が働くことが多い。

ただし、抑制しようとする意識が、それ以外の状況でのステレオタイプ的反応を促進するというリバウンド効果も示されている。

ステレオタイプの変容

上記で見たように、ステレオタイプの維持にはサブタイプ化が影響しており、ステレオタイプが変容するかどうかについてもサブタイプ化の生起が影響していると考えられている。

多くの実験から、ステレオタイプに反する情報を、特定の個人に集中させてもサブタイプ化は生起しやすいが、集団内の多数の成員に分散させるとサブタイプ化は比較的生起しにくいことがわかっている。

また、認知資源の有無もサブタイプ化に重要な役割を果たしていることが示唆されている。Yzerbyt らの実験によると、被験者の認知資源を操作した上でステレオタイプに反する情報を提示させると、認知資源が相対的に多い条件では情報を提示された後でもターゲット集団をステレオタイプ的に知覚しているのに対し、認知資源が相対的に少ない条件ではステレオタイプ的判断が低減していた。

サブタイプ化は、ステレオタイプに一致しない成員を切り離し、新しい下位カテゴリーを形成することと考えられるので、新しいカテゴリーの形成やステレオタイプに一致しない理由などを考えるのに認知資源が必要となるため、認知資源が欠乏している状態ではサブタイプ化が起こりにくいと考えられている。


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