長期記憶
ワーキングメモリは人間の認知的活動において重要な役割を担っているが、情報を保持できる時間は数十秒と短時間でしかない。そこで、再び利用されるかもしれない重要な情報は長期記憶へと転送される。長期記憶は膨大な容量を持っており、永続的な記憶であると考えられている。
長期記憶の種類
長期記憶は宣言的記憶と手続き的記憶に分けられ、宣言的記憶はさらに、意味記憶とエピソード記憶に分けられる。
意味記憶とは、言語や概念に関する一般的な知識の記憶で、エピソード記憶とは出来事に関する記憶である。宣言的記憶である意味記憶とエピソード記憶は意識できる記憶であり、顕在記憶とも呼ばれる。
一方、手続き的記憶は、自転車の乗り方やキーボードのタイピングなど、いわゆる「体が覚えている」という記憶である。宣言的記憶は言語的に記述できるが、手続き的記憶は言語的に記述するのが困難な場合が多い。手続き的記憶は、記憶にあるかどうか意識されない場合が多く、潜在記憶とも呼ばれる。
手続き的記憶には上記以外にもプライミング記憶や古典的条件付けがある。プライミング記憶とは過去に経験した刺激、またはそれに関連する刺激によって呼び起こされる記憶であり、誤字脱字の多い文章が問題なく読めるのも、プライミング記憶によるものと考えられている。
二重符号化理論
ワーキングメモリでは、音声ループや視・空間スケッチパッドによって、音声情報や視・空間情報が保持されていると考えられているが、長期記憶はどのような形式で保持されているかの一つに二重符号化理論がある。
二重符号化理論では、言語的な情報処理を行う言語的システムと、イメージの生成などを行う非言語的システムからなるとされている。この2つのシステムには相互連絡性があり、具体的な言葉を見たり聞いたりしたときイメージを喚起しやすく、逆に具体的な画像などを見た時には、言語化されやすい。これは2つのシステムのうち、どちらか一方ではなく、両方のシステムが関与していることを示している。また、非言語的システムが関与している情報は、記憶として保持されやすいことが知られている。
- 『認知心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2010)
- 『認知心理学 (放送大学教材)』 放送大学教育振興会(2013)
- 『錯覚の科学 (文春文庫)』 文藝春秋(2014)