企業とは

経営学は主に企業に関する学問であるが、企業についての明確な定義は用意されていない。ただ、経営学が前提としている企業概念にはいくつかの共通した特徴がある。


経済単位としての企業

経済学では、自らの意思によって経済行為を行う単位として、家計、企業、政府の3つに分けている。家計や政府は主に消費する経済単位であるのに対し、企業は生産する経済単位であるといえる。

家計における主婦の労働や政府の公共事業も生産的活動ではあるが、それが市場を通じて評価され対価が支払われるわけではない。これに対し、企業は市場で評価される製品やサービスを生産し対価を得ている。それを賃金や配当といった形で家計に還元し、税金という形で政府の経済的基盤を作っており、実質的に経済全体を支えている。

自営業者と呼ばれる個人事業主も生産する経済単位であり、個人企業とも呼ばれ、経済単位としての分類においても企業に含まれる。

ただし、もともと企業という概念は、土地や設備などの生産手段と労働が分離した結果、従業員を雇用するようになって生まれたものである。法人でも個人でも、従業員の雇用がなくても企業と呼ぶことはできるが、一般的な企業概念では、会社として位置づけられる資本主義的な事業体のことを指している。

変換システムとしての企業

企業は、経営資源を投入し、内部で変換を行い、それを製品やサービスとして産出することによって対価を得ている。ここで得られた成果は、従業員の賃金、原材料や設備の購入のために使われ、再び経営資源の投入という過程が始まる。つまり「投入→変換→産出」というプロセスを繰り返す変換システムとしてみることができる。

これらのプロセスによって得られるものは売上や顧客からの信頼だけではなく、顧客自体の情報や、製品やサービスに対する感想や改善点、あるいはプロセスの内部にある細かな問題点などの情報もある。得られた情報は、計画や変換プロセスの評価・調整に使われ、より効果的・効率的に働くように管理される。

つまり「計画(Plan)→実行(Do)→統制(See)」というプロセスを繰り返していることがわかる。これは、管理過程あるいはマネジメント・サイクルと呼ばれる。

「投入→変換→産出」が企業の外部から見たプロセスであるのに対し、「計画→実行→統制」は企業の内部で見られるプロセスである。この循環するプロセスは永久に続くように見えるため、このような企業の特徴はゴーイング・コンサーンまたは永続事業体と呼ばれる。

営利組織としての企業

企業が、公共団体や宗教法人などの組織と最も異なる特徴は、利益を追求するところである。公共団体や宗教法人は、税金や寄付という形で資金を集めることができるが、企業は利益をあげなければ存続できない営利組織である。

上述した「投入→変換→産出」というプロセスで、産出によって得られた売上から、投入された経営資源の金額の差は付加価値と呼ばれる。「変換」過程はこの付加価値を生み出すプロセスであるともいえる。その付加価値から人件費や借入金の金利が支払われて、残った金額が利益となる。さらにその利益から税金や株主への配当が行われ、残った金額が企業に残る金額である。

利益を増大させるためには付加価値を高めるのが最も効果的な手段である。付加価値を高めるとは、「投入」で使われる金額を減らし、「産出」で得られる売上を増やすことにほかならない。これを言い換えると、営利組織というのは「最小の犠牲で最大の成果を得ようとする合理的組織」ということである。

革新機能としての企業

企業は、単純に「投入→変換→産出」というプロセスを繰り返しているだけではない。その活動を通してさまざまな情報を蓄積し、新たな生産方法や販売経路、原材料の供給源などの獲得や、新しい製品やサービスの開発、新しい組織構造などの革新機能としての企業活動もある。

組織による活動では複数の人々が並行して動いているため、情報の蓄積量は個人の活動とは比較にならないほど多い。また、その情報をどう使うのか、あるいはどのように問題を解決するのかというようなことも、複数の人々からアイデアを募ることができるのでイノベーションが生まれやすい。これが、個人では成し遂げられないような革新機能としての企業の一面でもある。

社会的存在としての企業

企業活動は、取引先や流通業者、銀行などの金融機関、出資者である株主などと協力・連携することによって成り立っている。また、企業は雇用を増やしたり税金を支払うことによって、その地域の活性化にも貢献する社会的な存在でもある。

企業組織というのは、企業によって役割が決められている明示的な組織と、コミュニケーションを通じて自然に形成される非明示的な組織がある。バーナードの言葉を使えば「公式組織」と「非公式組織」である。これは、人々の集まりが2つあるということではなく、ひとつの集団には2つの側面があるということである。公式組織は意識的な過程によって成り立つが、非公式組織は社会的な過程を通じて成り立っている。

大企業や有名企業に入ることがひとつのステイタスとなることからもわかるように、外部から見た企業というのは社会的な存在である。企業内部においても、単なる人々の集まりではなく、コミュニケーションを通じてひとつの社会が形成される。これが経営学と経済学における企業観の最も異なる点のひとつではないかと思う。


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