雇用構造

生産者が製品やサービスを提供し消費者がそれを買うのと同じように、労働市場にも需要と供給があり、企業は労働市場から従業員を調達する。必要な能力・技術を持つ人が労働力を提供し、それに対して企業は賃金を支払う。

これは経済学的な表現であるが、企業とそこで働く従業員との関係性を見た場合、それはひとつの側面でしかない。

雇用された従業員は1日の多くの時間をその企業で過ごすことになる。そこは単なる収入を得る場ではなく、他の従業員や取引先の人々とのコミュニケーションや、仕事を通じての学習や成長、後悔や挫折などを経験する社会的な場でもある。

雇用される従業員から経営を担当する者が出てくることもあるし、雇用する人を選び決定する者も出てくる。また、企業が定めた明示的な組織とは別に、従業員同士の関係性を表す非明示的であるインフォーマルな組織も形成される。インフォーマルな組織は、情報の流れやコミュニケーションパターンを作り上げ、企業内部の環境を作り上げている。これは、企業側が従業員を雇用するという一方で、雇用された従業員が企業を作り上げているともいえる。


企業は何を雇用しているのか

企業は賃金を支払い従業員を雇用するわけだが、企業側は従業員に何を求めているのだろうか。これは「企業は何を雇用しているのか」という問題に置き換えることができる。これには大きく2つの考え方がある。

ひとつは、企業が雇用しているのは「スキル」という考え方である。この考え方の特徴としては「組織の中でこれができる人材がほしい」「この問題を解決するためにこういう技術をもった人を雇いたい」などの具体的な目的が先にある。これはスキルだけを人から分離させることができないので、人材として労働力を雇用しているという考え方である。

もうひとつは、企業が雇用しているのはトータルでみた「人」そのものであるという考え方である。人はさまざまな経験を通して学習するし、企業側の教育によってもスキルを増やすことができる。その企業の考え方や組織文化を学び、適応することもできる。また、さまざまな考え方をする人々を雇用することによって、企業としても多様性や柔軟性が生まれる。こうした柔軟性や可能性をもった人をトータルとして雇用しているという考え方である。

この2つの考え方は、即戦力となり企業に貢献してくれるという短期的視点なのか、5年後、10年後あるいはもっと先の将来に貢献してくれるという中・長期的視点なのかという考え方の違いでもある。

これらは、国や地域、文化などの価値観に依存する可能性が高いと考えられるが、どちらか一方の考え方しか持たない企業は少ないだろう。

雇用の選択

雇用についての基本的な原則は雇用慣行と呼ばれ、制度的に成文化されているもの以外にも慣行として扱われているものも多い。このような雇用慣行は労働市場においても暗黙的に了解されている部分は多いが、企業側でも選択することができる。例えば、雇用の期間や就業時間、職務の内容や就業場所に変更があるのか否か、賃金形態など多岐にわたる。

労使関係

一方で、雇用される側も雇用する側が選択した条件をそのまま受け入れるだけではない。いくら法の範囲内であったとしても、雇用される側が不当な扱いを受けていると感じれば反発するし、他の企業に移ることも考えるかもしれない。また、社会や経済の変化によって労働環境が悪化した場合に、雇用する側が何も対応を取らなければ同じような事態が発生するかもしれない。

一般的に、企業側は、その企業で働く従業員がいなくなったりして日常業務に支障が出ては困るので、できる限り協調的な労使関係を維持したいと考えるであろう。その基本的な選択として労働組合の存在を認めるかどうかがある。

労働組合は労働者によって構成されている組織であり、組合員の雇用を維持し改善するという目的がある。具体的には賃金の交渉や雇用人数を増やすなどの労働環境の向上などが挙げられる。

日本では、労働者が労働組合に参加している割合(労働組合組織率)は、第二次世界大戦直後は60%を超えていたとも言われているが、現在においては20%を切ることもある。アメリカではもっと低い位置で推移している。これにはいくつかの理由が考えられているが、そもそも労働組合の存在が賃金格差を拡大させているという指摘もあり、労働組合そのものの是非が問われる形になっている。


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