同調

人は社会生活を送る中で、さまざまなものから影響を受けて態度や行動を変化させている。社会心理学において、このような社会的影響の主要なテーマのひとつが同調である。

同調とは、他者の意見や信念と同じになるように調子を合わせることである。広い意味では説得による態度変容も同調であるといえるが、説得は影響を与える側の視点であり、同調は影響を受ける側の視点であることに注意が必要である。また、社会心理学では単に「同調」という場合、集団への同調を指すことが多い。通常は少数派が多数派に同調することになるので、集団規範に従うことが同調行動であるともいえる。

類似の概念として服従があるが、服従は他人の命令や意思に従うことであり、そこには支配する者と従う者という上下関係が存在している。同調との主な違いは、直接の命令があるということである。ただし、それが直接の命令であるかどうかは文脈の違いなど解釈の仕方によって異なる場合もあることと、従う者が支配する者に同調していると捉えることもできることから、服従は同調の一種であると考えることができる。


アッシュの研究

同調の実験で最も有名なもののひとつとして、線分の長さを比較させるアッシュの研究がある。この実験は、基準になる線分と同じ長さのものを3本の線分の中から選択するというごく単純な課題であり、1人で行うとほぼすべての人が正答する。しかし、あらかじめ回答パターンを指示されている実験協力者6人とともに座り、実験参加者は5番目に答えるという条件下では、誤答は4割にも達し、実験参加者の多くが多数派への同調行動を示したのである。

このように、答えが明確な状況においても、人は同調行動を示すことが明らかになったのである。

同調の要因

同調の起こりやすさと大きさを規定する要因として、以下のものが明らかにされている。

集団のサイズ

3~4人までは人数が増えるほど同調は起こりやすくなるが、5~6人以上になるとほとんど増大しないとされている。単純に2人の場合は多数派と少数派という概念が存在しないことが理由のひとつだと考えられる。

集団内の合意性

1人でも多数派に反対する者がいると、同調する割合が著しく減少する。これは、多数派のもつ情報の信憑性が低下することと、自分と同じように考える人がいることによって自分は間違っていないかもしれないという期待が生まれることが理由として挙げられる。

集団凝集性

集団凝集性が高いほど同調傾向は増大する。凝集性の高い集団はもめごとを避け、集団の考えを尊重するためだと考えられる。実際に、個人主義的文化よりも集団主義的文化、男性よりも女性の方が、同調傾向が高いという研究もある。

集団内での地位

一般的に、地位の高い人よりも低い人の方が同調する傾向がある。これは、地位の低い人は集団の決定に従えば失敗したとしても責任を感じなくてもよいことと、自分よりも地位の高い人に反論することによるリスクを避けるためであるという服従の観点から説明ができる。

状況的要因

個人における私的判断が優先される場合よりも、人前での公的反応が求められる場合の方が、同調が起こりやすい。集団内での周りからの評価を考えれば、公然性が高い場合は同調するほうがリスクは低いからだと考えることができる。

個人的要因

自尊感情が弱い人や親和要求が強い人は同調しやすいことがわかっている。自尊感情が弱いということは自分の意見に自信がないということ、親和要求が強いということは周りの人と仲良くしたい、もめごとを起こしたくないということである。

同調の種類

同調は影響の受け方によって、主に3つに区別される。

情報的影響と規範的影響

ドイチとジェラードは、同調の原因として情報的影響と規範的影響の2つを提唱している。情報的影響とは、他者から得た情報を客観的事実の基準として捉えるというものである。これは多くの人の意見が一致する場合に、より正解に近いという信念に基づいており、これを基により正しい行動をとろうとするため同調が生じるというわけである。もう一方の規範的影響とは、集団規範に従うことによってその集団に適合しようとするというものである。周りの人と異なる行動をとることによって、集団の和を乱し拒絶されることを避け、集団から承認や賞賛を得ようとするために同調が生じるということである。

情報的影響と規範的影響をごく簡単な言葉で表現すれば「正しくありたい」「周りの人から好かれたい」ということである。この2つの要求は、個人差はあるにせよ社会生活を送る人間にとってごく当然のものである。これらがなければ集団生活はうまくいかないようにさえ思える。

同調と社会的問題

集合的無知

集団内で多数派の意見をもつ人たちが、多数派の意見が表明されないために自分だけが他の人と違う意見をもっていると錯覚し、少数派の意見に同調してしまうことがある。これは集合的無知あるいは多元的無知と呼ばれる。すでに表明されている意見が多数派なのではないかという懸念に始まり、多くの人がそのように考え周囲からの拒否を恐れて沈黙してしまうため、懸念は確信へと変わっていく。この思い込みは時間経過とともに徐々に強くなっていくと考えられる。

ミラーらは、集合的無知は「こうあるべきだ」「こうしてはいけない」といった共通信念である社会規範への敏感さから生起するのではないかとしている。集合的無知は少数派の意見を採用することでもあるわけだから、そこには新たな集団規範が形成されることになる。その集団規範は歪んだものとなる可能性があるため、社会規範への敏感さが、皮肉にも社会規範の逸脱を招く可能性を含んでいるといえる。

フォールス・コンセンサス効果

規範的影響のもとでは、自分と同じ考えを持つ人が実際よりも多くいるかのように感じることがあり、これはフォールス・コンセンサス効果(偽の合意効果)と呼ばれる。地位の高い人間がこのような合意性の過大推測を行うと、地位の低い人への同調圧力を生み出すことになる。その結果、集団思考や集合的無知などの現象が生起しやすくなるのではないかと考えられる。

また、自分と同じ考えの人が大勢いると考えているということは、周りの人から見ればその行動は自信をもったものに映るだろう。そうだとすれば、最初は多数派であると錯覚していたものが、本当に多数派へと変わっていく予言の自己成就のようなプロセスも想定できる。

集合的無知は少数派であると錯覚し、フォールス・コンセンサス効果は多数派であると錯覚するものなので、真逆の反応である。どちらが表れるのかは、おそらくその集団の特性と個人の特性、個人の気分などにもよるだろう。

服従

このページの冒頭でも記した通り、服従とは他者の命令に従うことであり、そこには上下関係が存在している。服従についての最も有名な研究として「アイヒマン実験」として知られるミルグラムの研究がある。服従の研究について、このサイトではこれ以上言及はしないが、ミルグラムの研究については「『服従の心理』河出書房新社(2012)」に詳しく載っているので、そちらを読むことをおすすめする。

また、関連する研究としてジンバルドーによる、いわゆる「スタンフォード監獄実験」がある。こちらは「『ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき』海と月社(2015)」に詳しく載っている。社会心理学の根幹ともいえる状況が人の行動に与える影響がよく分かる書籍である。ただし、刺激の強い内容になっているので、読む際は注意が必要である。

再度、同調とは何か

すべての価値観や性格が同じ人間は存在しないということを考えれば、集団が大きくなるほどすべての成員の意見が一致する確率は減少していくことがわかる。しかし現実を見ると、国や地域、学校や企業などの大きな集団においても、すべての成員の意見が一致しているかのような行動を示す。これにはさまざまな理由が挙げられるが、やはり根本的な理由は、自分や自分の家族が生きていくために集団から排除されないようにするため、あるいは面倒な争いごとに巻き込まれたくないために、同調が生じていることであろう。

同調は集団に付随する特性であり、集団と切り離すことはできない。事ある毎に意見の対立が起きていれば、集団の存続は不可能となる。環境の変化に柔軟に対応して長期的に存続していくためには、さまざまな意見や信念を持つ人たちがいることが重要であるわけだが、集団の活動が円滑に行われるためには、ある程度の同調が必要なのである。集団規範に従うことが同調であると捉えることもできるわけだから、同調が集団を作り上げているともいえるだろう。

同調は、起こり過ぎても全く起こらなくても集団にとって問題が生じるはずであるが、同調が起こらなかったために問題が生じるという研究は少ない。同調が起こらないということは集団規範に従わない、あるいは集団規範自体がないことを意味しているため、もはや集団とは認知されないためだろう。つまり、同調がまったく起こらなくなることは集団の分裂や崩壊を意味しているが、これは集団の外部から見れば社会的な問題には思えないということである。

また、同調には道徳や倫理といった社会規範に反するものとそうでないものがある。この2つの同調が起こる度合いには相関があると思われるが、社会的問題として取り上げる場合、同一のものとして扱うことには無理がある。同調が原因とみられている事件や事故はあるが、問題を起こさない集団には同調が起こらないなどと考える人はいないだろう。どちらの集団にも同調は起こっているのである。つまり、同調の内容に問題があるわけで、同調自体が悪いものであるという見方はできない。

このページでは、少数者が多数派へ同調する現象について見てきたが、同調は必ずしも多数派に対して起こるわけではない。少数者の影響力については「マイノリティ・インフルエンス」のページに掲載する。


参考書籍
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