集団の生産性

集団とは」のページでも記述したが、集団に所属する理由のひとつは、ひとりでは成し遂げられない目標を達成するためである。ひとりでは成し遂げられない理由に関しては、能力の問題と時間の問題が挙げられるだろう。

アダム・スミスが『国富論』の中で集団による分業の効率性を説いており、現代においても、仕事に関しては多くの人が何らかの組織に属しており、最初から最後までひとりで仕事を完結させる人は少ない。集団で仕事を行うことは個人で行うよりも本当に効率がよいのだろうか。


集団作業における課題の分類

一般的にみて、ひとりで仕事をするよりも10人でしたほうが時間的には短くなるだろう。しかし、これはどんな場合にでも当てはまるのだろうか。

スタイナーは、集団の生産性は人的資源と課題のタイプの2つの要因の組み合わせによって説明できるとし、課題のタイプを以下の5つに分類している。

加算型は、各個人の成果が集団の成果に合算されていく課題である。この課題では、集団の成果は個人のものを上まわり、集団が大きくなるほどその効果も大きくなる。

平均型は、各個人の成果を平均したものが集団の成果となる。この課題は何を成果にするかによって評価が変わってくる。学力テストを例に挙げれば、統計的なデータを取る場合には集団のほうがより正確なデータがとれるわけだが、学校別あるいは地域別などの集団間で平均点を競う場合には、集団の成果は能力の高い個人と比較すれば成果は下がるが、能力の低い個人から見れば成果は上がる。

※私(このサイトの著者)は、この平均型課題の位置づけが理解できていない。「『図解雑学 社会心理学』ナツメ社 P138, 139」をみると、平均型課題(この書籍では「補正(調整)的課題」となっている)は「集団で行うと最高のメンバーよりさらに高い成果を出すことができる」としており、例として「野鳥の数を数える」「みんなが数えた数から平均を出す」となっているため、統計データの質が成果として用いられていると考えられる。他の書籍においてもこれ以上の説明はない。しかし、サンプルの数が増えれば質が上がるということを考えれば、サンプルの数を成果とした加算型課題と実質的には同じものとなる。集団間の平均点を競う場合にも、結果を平均するかしないかの違いでしかないため、こちらも加算型課題と同じものだと考えられる。

統合型は、すべての成員の働きを統合することによって集団の成果が実現するものである。よく用いられる例として登山がある。チームを作って全員で登頂を果たすことを目的としている場合、登山の速度は最も遅い成員に依存することになるため、集団よりも個人の方が成果は高くなる。

分離型は、最も能力の高い成員によって集団の成果が決定されるものである。例えば、新製品や新技術などのアイデアを集団内で出し合う場合などである。分離型は、個人よりも集団の方が成果は高くなる。

任意型は、個人のどの成果を集団の成果とするかを集団が自由に決定できる課題である。分離型と似ているが、任意型は判断する要因が複数あり優劣が明確ではない場合や、代表者に決定が一任される場合などである。

上記の説明は課題の性質を表したもので、心理的な影響は含まれていないことと、同じ時間あるいは同じ期間での集団の成果と個人の成果を比較したものであることも追記しておく。

以下では、集団に所属する個人と集団に所属しない個人を比較したときの、集団作業における心理的な側面を見ていく。

社会的促進と社会的抑制

心理学者のノーマン・トリプレットは、自転車レースにおいて、ひとりでタイムを計るよりも他者と競争しているときのほうが、タイムが短くなることに気がついた。そして、子どもたちに釣りざおのリールを早く巻いてもらうという実験を行い、ここでもひとりで巻くよりも、他の子どもがいるときのほうが早く巻くことができたのである。このトリプレットの実験は、社会心理学における最初の実験的研究といわれている。

トリプレットはこの研究結果を競争によるものと捉えていたが、そばにいる他者が競争相手ではなくてもパフォーマンスが向上することが知られており、これは社会的促進と呼ばれている。しかしその後の研究では、他者がそばにいると必ずパフォーマンスが向上するわけではなく、逆に低下する場合もあることが明らかにされている。このように、他者の存在によってパフォーマンスが低下する現象は社会的抑制と呼ばれる。

ザイアンスは、促進と抑制という2つの相反する現象を、動因という単一の原理によって説明している。他者の存在は覚醒水準を高めるが、人は生理的覚醒状態にあると、十分に学習し慣れ親しんだ行動を取りやすくなる優勢反応が表れやすい。この優勢反応が正しい課題においては社会的促進が起こり、優勢反応が正しくない課題においては社会的抑制が起こるというわけである。もっとわかりやすい言葉を使えば、その人にとって簡単な作業では社会的促進が起こりやすく、難しい作業や慣れていない作業では社会的抑制が起こりやすいといえる。

ザイアンスのこの理論は、多くの研究によって裏づけられているが、他者がそばにいるだけで覚醒水準が高まるのかどうかについては見解が分かれており、他者からの評価を気にすることによって覚醒水準が高まっているとする評価懸念説もある。また、注意の拡散が覚醒水準を高めているという見解もある。

社会的手抜き

農業の生産性について研究していたリンゲルマンは、作業員を増やしても全体の生産性は期待していたほど上がらないことを発見している。このような、集団で共同作業を行うとき、その集団の人数の増加に伴い、1人当たりの作業量や質が低下する現象は社会的手抜き、またはリンゲルマン効果と呼ばれている。

リンゲルマンは、共同作業をするときに起こる調整の難しさが原因の一部であると結論すると同時に、個々人が手を抜いているのではないかという懸念ももっていた。これは、その後の研究によって、相互調整の必要がない課題においても社会的手抜きが起こることから、個々人が手を抜いていることも原因のひとつであることが明らかにされている。

個々人の手抜きは、他にも人がいるため自分が全力を出す必要はない、あるいは手を抜いても他者にバレないだろうという責任の拡散が考えられている。これは、個人の遂行が集団の遂行に合算される加算型課題で起こりやすいことを意味しており、研究によっても示されている。また、自分は全力を出したと思っていても、実際にはパフォーマンスが低下しているという研究もあるため、このような手抜きは非意識的にも起こることがわかる。

社会的手抜きを避ける方法

集団での作業、特に加算型課題では社会的手抜きは避けられない問題ではあるが、いくつかの方法によって社会的手抜きを低減できると考えられている。


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