集団間の対立とその解消

歴史を見てもわかるように、集団間における対立は幾度となく生じている。もちろん個人間における対立もそれ以上に生じているわけだが、集団が個人では到達できないような目標を達成するために形成されていることを考えれば、集団間の対立は個人間のものよりも規模の大きなものになり、社会的な問題に発展しやすいことがわかる。

そもそもなぜ対立が生じるのかについては、基本的な考え方として、シェリフらによる現実的利害の衝突がある。上述したとおり、集団は何らかの目標を達成するために形成されるが、その目標は他の集団の目標であることもある。複数の集団のうちひとつの集団がこの目標を達成すれば、他の集団はそれを手に入れることができない場合、そこには競争的な関係が生じることになる。つまり、外集団が自分たちの目標を達成するのに邪魔になる状況において、外集団に対する敵意や嫌悪感情が生じ、対立に発展するという考え方である。


集団間の感情

人は馴染みのないものや異質なものとの接触に対して、不安感情を喚起しやすい。これは外集団に対しても同じである。不安感情はネガティブな記憶を活性化しやすく、外集団に対する印象はステレオタイプ的になりやすい。そこに競争が生じれば、好意的な印象を抱くことは難しいだろう。

現象がどのような状況で起こったかによって解釈のされかたは異なるわけだが、「内集団バイアス」が示すように、内集団にとって悪い出来事は外集団に原因を帰属しやすい。両集団の力関係が明確である場合、内集団が強者であれば怒りを感じるかもしれないが、弱者であれば不安や恐怖が喚起されるであろう。また、力関係がよくわからない場合には、両集団ともに怒りを感じるかもしれない。こうした感情がステレオタイプと結びついて偏見や差別を生み出し、対立へと発展しているという見方もできる。

接触仮説

集団間の関係において、社会的に重要な問題は「どうすれば対立をなくせるのか」ということである。これは、対立が偏見や差別に基づいているならば「どうすれば偏見や差別をなくせるのか」という問題に置き換えることができる。

集団間の偏見や差別は相手集団に対する無知から生まれるので、集団間の接触回数を増やせば偏見はなくなるという考え方があり、これは接触仮説と呼ばれている。しかし、対立する集団同士の接触回数を増やしても、かえって関係が悪化する場合もあり、単純に接触回数を増やすだけでは偏見や差別がなくなるわけではない。接触仮説が成り立つためには以下のような条件が必要であるとされている。

サブタイプ化

上記の典型性については、接触する相手がステレオタイプに反する特徴を持っていたとしても、その相手が例外的であると認識されれば、集団全体のステレオタイプが解消されることはないということである。このような例外化はサブタイプ化と呼ばれる。ヒューストンらの研究によると、その集団の典型的な成員が反ステレオタイプ的な面をみせると、その集団全体の印象に一般化されやすいことがわかっている。

拡張接触効果

ライトらの研究では、自分自身が直接の接触がなくても、自分の友人が外集団の成員と友好的関係にあることを知るだけでも、その集団に対する印象が良くなることが示されている。このような間接的な接触効果は拡張接触効果と呼ばれている。

脱カテゴリー化

ブルーワーらは、カテゴリーの顕現性を最小化することによりステレオタイプの影響を低減できると考え、脱カテゴリー化モデルを提唱した。このモデルによれば、交差するカテゴリー情報を多く与えられると、それぞれの情報価値が希薄化され、偏見を低減できる可能性があるとしている。

これは相手の人物を集団レベルではなく個人として理解し接触することによって、偏見を低減しようとする試みである。したがって、相手の人物を例外と見なしサブタイプ化されることによって、集団への偏見は低減されないのではないかという指摘もある。

再カテゴリー化

性別や人種など、その区分が明白である場合には、カテゴリー間の境界を目立たなくして脱カテゴリー化を試みることは難しい。このような場合にはカテゴリーから外すのではなく、カテゴリー間の違いを認めた上で、それぞれのカテゴリーを含む上位カテゴリーによって再カテゴリー化したほうが協力的関係を築きやすいと考えたのがガートナーとドヴィディオであり、これは共通内集団アイデンティティモデルと呼ばれている。もっと簡単に表現すれば、違いに目を向けるのではなく共通している部分に目を向けるということである。これによって共有しているアイデンティティに気づくことができ、好意的な態度が形成されるかもしれない。

シェリフらによるフィールド実験

集団の対立をリアルに示した有名な実験として、シェリフらによる少年キャンプのフィールド実験がある。この実験は、11歳の少年24人が2つのグループに分かれ、オクラホマ州にあるロバーズ・ケイヴと呼ばれるキャンプ場で共同生活を行ってもらうというものである。実験に参加する少年たちは、学業成績や家庭環境が似ている、精神的に安定している、白人で同年代であるなど、よく似ている少年が選ばれている。また、少年たちは自分たちのグループにそれぞれラトラーズとイーグルスというグループ名もつけていた。

キャンプ中には、グループ間の競争関係を促すような野球や綱引き、テント張り競争などが行われ、相手のグループに対し敵意を持つようになり、相手の宿舎を襲ったり物を盗むなどの行動も表れ始め、殴り合いも発生したという。研究者たちは一時的に2つのグループを引き離し、それぞれのグループを評価してもらうと、内集団の方が優れているという内集団バイアスがみられた。

互いに知らない者同士がランダムにグループ分けされ、わずか数日でここまでの対立関係に発展したことは驚くべきことだろう。さらに、よく似ている少年たちが実験に参加しているわけだから、グループが違うという以外に一般的なステレオタイプは存在していなかったはずである。少年たちの学業成績や精神状態が良好であったことを考えれば、集団に所属すること、あるいはその周りの環境がどれほど影響力をもつのかがわかるだろう。

シェリフらの実験はここで終わりではなく、どうすればグループ間に起こる敵意を取り除くことができるのかにも注意を向けた。その答えはごく単純なものだった。競争させるのではなく、2つのグループが協力しなければ達成できない目標を設定したのである。例えば、水を運び上げるトラックが動かなくなり、両グループが力を合わせてロープを引っ張るなど、協力が必要になる環境を作り出した。このような協力活動を通して、2つのグループは互いへの敵意を軽減させ、目標を達成したあとの調査においても相手のグループへの評価は改善し、相互に友好関係が確認されたのである。

この実験では、接触仮説が成立するための条件の多くを満たしていたと考えられる。互いによく似ている少年たちが選ばれていたことと、研究者が少年たちを平等に扱っていたと考えられることから、地位の対等性が保たれており、グループ形成後に表れたと思われるステレオタイプは、協力活動を通して比較的簡単に反ステレオタイプ的情報が得られたと思われる。また、集団の人数がそれほど多くなかったことからサブタイプ化が起こりにくかったと考えられる。そして、協力活動で互いの利益となるような報酬が得られたことによって、対立関係が解消されたのである。


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