ステレオタイプ脅威

ステレオタイプをその集団の成員が意識すると、ステレオタイプの内容と同じ方向へと変化していく現象をステレオタイプ脅威と呼ぶ。得意とする課題でも、苦手かもしれないという不安を与えただけで成績は低下する可能性がある。逆にその不安を取り除いてやれば、成績は回復する。


スティールとアロンソンの実験では、黒人と白人の学生を集めて試験を行った。そのとき「これは科学研究の資料にするための試験」という説明をした場合には、黒人の学生と白人の学生の成績に大きな違いは見られなかったが、「知性の高さを測る試験」という説明をした場合には、黒人学生の点数は白人学生に比べて明らかに低くなったのである。

ステレオタイプ脅威の研究は「高齢者は記憶力が悪い」「女性は数学が苦手」などの様々なステレオタイプで行われており、多くの研究でその効果が確認されている。その原因のひとつとして考えられているのは、不安や恐怖といったネガティブな感情の生起によってワーキングメモリが阻害されるというものである。実際に、否定的なステレオタイプをユーモアに変えることができる人は、成績の低下が少ないという研究もある。

不安や恐怖などの感情が生起するのは、ネガティブな社会的アイデンティティをもつことによって自己評価が下がることを予期するからだと考えられる。したがって、集団への所属意識が高い方がステレオタイプ脅威による効果は大きいと予想できる。

ネガティブな社会的アイデンティティをもった場合、所属集団の地位を向上させようとしたり、集団から離脱しようとするが、すべての人がこのような積極的な行動を起こすとは限らない。また、性別や人種など変えようがないカテゴリーも存在している。このような場合の反応のひとつとして考えられているのが、ステレオタイプの存在する領域は自己評価とは無関係なものであると考え、自分の得意な領域で自己を評価することである。このような反応は実際の研究によっても確認されている。

得意な領域で自己を評価することは、自尊心を保つという意味では短期的には有効な方法であると考えられるが、長期的に見るとあきらめた領域での能力が欠落する可能性がある。そこで危惧される社会的問題として学力格差が挙げられている。学業を自己評価から切り離せば、短期的には精神的な健康は得られるかもしれないが、大人になって社会生活を送る上では不利に働く恐れがある。少なくとも仕事を選ぶという面を見れば、その選択肢は少なくなるだろう。

ステレオタイプ脅威は大きな影響力をもっているが、防げないものでもない。自分の知性や能力は発達させることができるという信念をもっていれば、悪い影響のいくらかは減じることができる。それは研究によっても示されているが、過酷な環境から成功を収めた人たちを見れば明らかである。


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