愛と恋愛関係
ひとくちに「愛」といっても、友愛や恋愛、親子愛、兄弟・姉妹愛、ペット愛、郷土愛など、そのかたちや程度はさまざまであり、ひとつの特徴によって定義するのは難しそうである。このページでは、研究者たちがどのように愛を捉えようとしてきたのかと、関係を破綻させる要因について概観する。
愛の三角理論
愛をひとつの要素ではなく複数の要素から成り立っているとすることによって、さまざまな愛のかたちを表現しようとしたのが、スタンバーグの愛の三角理論である。スタンバーグは、親密性、コミットメント、情熱の3つの要素に分け、これらの高低によって愛を8種類に分類した。
親密性は、親しさや相手とつながっているという感覚で、気軽に相談できる、一緒にいると落ち着く、あまり気を使わなくてもよいなどの場合、親密性が高いといえる。コミットメントは、短期的には相手を愛する決意で、長期的には愛し続けようとする意思である。情熱は、ロマンスや身体的魅力によって引き起こされる生理的な興奮や一緒になりたいという衝動である。
本来は三角形の頂点に各要素を配置した図で表されるが、ここでは表で示す。
愛のタイプ | 親密性 | 情熱 | コミットメント |
---|---|---|---|
否愛 | 低 | 低 | 低 |
空愛 | 低 | 低 | 高 |
心酔愛 | 低 | 高 | 低 |
愚愛 | 低 | 高 | 高 |
好意 | 高 | 低 | 低 |
友愛 | 高 | 低 | 高 |
恋愛 | 高 | 高 | 低 |
完全愛 | 高 | 高 | 高 |
- 否愛・・・3つの要素がすべて欠如している。表面的な関係。
- 空愛・・・コミットメントのみを感じている愛。長期的な関係の最終段階においてよくみられる。
- 心酔愛・・・情熱のみを感じている愛。一目惚れのような状態。
- 愚愛・・・情熱とコミットメントによって引き起こされる愛。親密性が低いため安定しない。
- 好意・・・親密性のみ感じている。友人関係。
- 友愛・・・親密性とコミットメントからなる愛。長期の友人関係や身体的魅力を感じなくなった夫婦関係。
- 恋愛・・・親密性と情熱を感じている愛。恋愛関係。
- 完全愛・・・すべての要素をそなえた愛。スタンバーグは目指すべき愛の形としている。
愛着理論
精神分析家で動物行動学者でもあったボウルビィは、対人関係における愛の表現方法に個人差があるのは、幼少期の養育者との関係性が大きく影響していると考えた。これは幼少期の頃の経験が成人した後の対人関係を方向づけるという決定論的な考え方として捉えられ、多くの批判を招いたが、その後、愛着スタイルに関する多くの研究を生み出した。
ヘイザンとシェイバーはボウルビィの理論を発展させ、成人の愛着理論として提唱した。この理論では、友人関係には見られない母子関係と恋愛関係に共通する以下の4つの点を根拠としている。
母と子の関係 | 恋愛や夫婦関係 | |
---|---|---|
近接性の探索 | 母親に近づいて身体的な接触を求める。また、それを維持しようとする。 | 恋愛相手を抱きしめたい、触れたいと思う。また、それを心地よいと思う。 |
分離苦悩 | 母親から離れることに泣く、叫ぶなどの抵抗を示す。 | 恋愛相手と長期にわたって会えないとつらい思いを経験する。 |
安全な避難所 | 不安や危険を感じた場合に母親から安心感を得ようとする。 | ストレスや悩みがあるときに恋愛相手から慰めてもらおうとする。 |
安全基地 | 母親から安心感を得ることで、ほかのことに興味をもったり、遊びが活発になる。 | 恋愛関係から信頼や安心感をもらうことで、仕事や勉強に集中して取り組める。 |
バーソロミューとホロウィッツは、自己評価と他者への評価が愛着スタイルの基礎になると考えた。ここでの自己評価は、自分が援助を受けるのにふさわしい人物かどうかで、他者への評価とは、自分が援助を必要としているときに助けてくれるかどうかという期待である。この2つの要素の高低の組み合わせによって、愛着スタイルは4つに分類される。
自己評価 | |||
---|---|---|---|
ポジティブ(低不安) | ネガティブ(高不安) | ||
他者への評価 | ポジティブ (回避傾向弱) | 安心型 ・自立心 ・他者への敬意 ・良好な関係 | 没頭型 ・主な関心は他者からの受容 ・他者を理想化する傾向 ・感情の起伏が大きい |
ネガティブ (回避傾向強) | 離脱型 ・関係の意義を軽視 ・感情抑制型 ・自立心を強調 | 畏怖型 ・他者からの拒絶を恐れる ・他者への不信感 ・個人的不安定性 |
関係の継続と破綻
愛のある関係性を築けたとしても、一生続く関係になるとは限らない。1日で終ることもあれば、数ヶ月続いて終わることもあるし、数十年後に分かれてしまう夫婦もいる。
長期的な関係を破綻させる要因のひとつに外的環境の変化がある。出産や育児、介護、会社での出世や転職など、人は強いストレスにさらされると家族や恋人からも距離をおくようになる。このコミュニケーション不足からすれ違いが生じ、葛藤を引き起こしやすくなる。
性格的要因
結婚生活が安定するかどうかは、個人の性格的な要因もある。結婚した双子3147組の性格を調査した研究では、長期的な関係を保つことができないのは、因習にとらわれない外向的な性格と、ネガティブな気分になりやすい性格であった。因習にとらわれない外向的な性格の人は、社会的な制約範囲をかなり広く見る傾向があるため、結婚生活が不安定になるという。ネガティブな気分になりやすい人も、互いに感情的な面で不安定になりやすい。
1930年代に婚約した300組のカップルをおよそ半世紀にわたって追跡調査した研究では、1930年代に感情的に安定していた人は、その後の追跡調査においても安定した結婚生活を続けていたという。
まとめると、関係を維持しやすい個人的な性格とは、環境の変化に適応できるだけの柔軟性と、感情的に安定するための自己制御能力、そしてある程度の社会性が必要になる。
状況要因
グーテンタークとセコードは、結婚適齢期の女性の数が男性よりも多い場合、性に対しての社会的規範が許容的になり、男性があまりコミットしなくなるため婚期が遅れることを発見した。逆に結婚適齢期の女性よりも男性の数が多い場合は、性に対する許容度が低くなり、家族をもつことに対しての価値が上昇するため婚期は早くなる。彼らはこの現象を、需要と供給という経済学的視点で説明している。つまり、男性の需要よりも供給が多くなれば相対的に女性の価値が上がるため、女性は相手に結婚を要求することができる。逆に男性の供給が減少すれば男性の価値が上昇するため、男性が結婚の選択権をもつことになり、なかなか結婚まで発展しないというわけである。
これらは国や地域といった大きな集団だけではなく、会社やコミュニティーといった小さな集団にも当てはまる。そして交際している異性がいる場合にも、別の交際相手が容易に見つかるかどうかということでもあるので、関係を破綻させる要因のひとつともいえるだろう。
- 『社会心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2010)
- 『Social Psychology: Goals in Interaction (6th Edition)』 Pearson(2014)
- 『心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2004)
- 『史上最強図解 よくわかる恋愛心理学』 ナツメ社(2010)