交換関係と共同関係

クラークとミルズらは、対人関係の心理過程に着目すると、交換関係と共同関係の2つに区別できることを提唱した。

交換関係は、ものや情報といった資源のやり取りによって互いに利益を得る関係であり、ビジネス上の関係などは典型的な例である。共同関係は、相手の幸せを気遣うことに基づいた関係で、相手と自己を同一視することによる連帯感や安心感などが関心事となる。代表的なものとしては、家族や友人、恋人などが挙げられるが、必ずしも共同関係というわけではない。関係によって得られる家事などの労力や社会的地位、名声、経済的利益など、質の異なる何らかの資源の交換が関係を支えていることもある。

交換関係と共同関係は心理過程における区別なので、実際の人間関係が必ずどちらか一方に分類されるということではない。考え方によってはどちらか一方だけの関係というのもあり得るが、多くの場合はこの2つが混在している。


交換関係を維持する要因

交換関係は「社会的相互依存関係を動機づけるものは、資源の交換によって得られる利益である」という社会的交換理論というかたちで理論化されている。この理論に基づいた研究では、関係を維持するためのいくつかの原理があるとされている。

衡平性

自分の資源と相手の資源を交換するわけだから、それぞれの資源価値の差が大き過ぎれば、一方は損をして怒りを感じ、もう一方は多くの利益を得られるが罪悪感や負い目を経験することになる。このような衡平でない交換は、どちらも負の感情を経験することになるので関係性を維持するのは難しい。そもそも衡平でないと判断すれば資源の交換は生じないであろう。

一般的に、交換関係においては投資量に比例した成果を得るのが公正であると考える衡平の原則が適用され、共同関係では投資量に関わらず関係したものが同等の成果を得るのが公正であるとする平等の原則が用いられる。しかし、民主主義という特性上この2つの考え方が混在していることは先にも述べたとおりである。

満足度

交換関係においては、相手に資源を与えることによるコストを上回る報酬を得ることが求められるわけだが、互いに得られる利益(報酬とコストの差)が同じでも満足度が同じとは限らない。

ティボーとケリーは、その関係からどれだけの利益が得られるかという期待が満足度の基準になるとし、これを比較水準と呼んだ。つまり、得られた利益が比較水準を上回るほど満足度も高くなるというわけである。

この比較水準を決める要因はいくつか考えられるが、その中のひとつとして代替選択肢がある。交換する相手や資源を切り替えた場合にどれだけの利益が得られるのかが、比較水準に影響を与える。例えば、同じ業種の別の会社の給料が、自分の会社の給料よりも1.5倍も高いことを知ってしまった場合、あなたはどう感じるであろうか。それを知ったからといって、あなたの労働時間や給料が変わるわけではないが、満足度は低下するであろう。つまり、比較水準が上がったのである。ただし、交換関係を切り替える場合には切り替えコストが発生する。この場合、会社の面接を受けたり人間関係の再構築が必要になるため、実際の比較水準は1.5倍までは上がらない。

ジレンマ

上述した代替選択肢がない場合はどうであろうか。今勤めている会社を退職し他の会社に就職したいと考えていても、能力や立地など何らかの理由でそれができない場合は、その会社をやめてしまえば収入がなくなってしまうため、今の会社との関係を続けざるを得ないだろう。

一般に、衡平性や満足度が高くなくても関係を断ち切ることによる損失が大きいと感じている場合には、その関係に依存することになる。これは、満足の評価対象がひとつしかない場合にはおそらく起こらない。上記の例で見れば、今勤めている会社を辞めたい理由の他に能力や立地、収入などが評価対象になっている。

さらに、能力や立地といった条件は解決不能なものではなく、勉強して能力を高めたり、転居や交通手段の変更という選択肢があれば解決可能である。つまり、これらの努力と努力によって得られる結果と比較して、時間などの資源を努力ではなく他のことに使うことで満足感を得ている。言葉を変えれば、この問題は努力の有無による損益と、その結果の損益とのジレンマであるともいえる。一般的にこのようなジレンマに陥ると失敗による損失を過大に評価してしまうため、現状を維持するような選択をしやすくなる。

人間関係が良好ではない場合、このようなジレンマを抱えていることが多い。ジレンマがなければ、良好ではない人間関係はすぐに断ち切れるはずである。このページでは経済的な面を多く取り上げたが、道徳性や倫理性などの社会的要因と経済的要因とのジレンマや、短期と長期のジレンマ、個人と集団のジレンマなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って交換関係あるいは人間関係が維持されているのである。


参考書籍
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