認知と思考様式の文化差

ニスベットは、さまざまな心理学的実験に基づく比較文化研究を積み重ねるとともに、2500年前の中国とギリシャの社会構造や人々の考え方などを考察し、東西の思考様式の違いを示している。

ニスベットの研究によれば、東洋人は人や物といった対象を取り巻く「場」全体に注意を払い、さまざまな場の要素との関係に基づいて対象を捉えようとする。これは、古代中国の思想的伝統を受け継ぐ思考様式であり、これを包括的思考とした。一方で西洋人は、文脈から切り離して対象をとらえ、対象そのものの属性に注目し、カテゴリーに分類することによって対象を理解しようとする。これは、古代ギリシャの知的遺産を受け継ぐ思考様式で、これを分析的思考とした。


事物の認知

ニスベットらは、日米の大学生に水中の様子を描いたアニメを見せた後、覚えている内容を説明するよう求めると、アメリカ人は中央の大きくて目立つ魚に注目するのに対し、日本人はあまり目立たない海藻や泡、小さな貝などの背景に言及する割合がはるかに高かった。

また、前と同じ背景あるいは別の背景の中に描かれた魚などの静止画を見せて、前に見たものかどうかを尋ねると、アメリカ人の場合は背景の違いによって正答率が変わらないのに対して、日本人の場合は成績が悪化することが確かめられている。

他者の認知

増田らは、日米の大学生に5人の人物が描かれたイラストを見せて、中央の人物の感情を判断してもらう実験を行っている。このとき中央の人物は周りの4人よりも大きく描かれており、5人の表情が操作されたパターンがいくつか用意された。実験の結果、日本人の場合は、中心人物の感情についての判断は周囲の人たちの表情に影響を受けるのに対して、アメリカ人の場合はこうした影響を受けないことがわかった。

また、実験参加者の目の動きを測定すると、イラスト呈示の1秒後までは日米ともに中央の人物に注視しているが、イラスト呈示の3秒後には、日本人の場合は周囲の人物に視線が広がるのに対して、アメリカ人の場合は中央の人物を見続ける傾向があった。

他、対応バイアスの文化差は「属性推論」、自己高揚動機の文化差は「自己動機」のページに記載。

自己の認知

「私は…」で始まる20の文章を自由に作ってもらう課題は20答法と呼ばれる。この20答法を使った研究では、アメリカ人は性格や才能などの比較的抽象的な自己の内的特性について記述する傾向があるのに対して、東アジアの人々では自己の所属などの社会的役割を記述する傾向がある。

カズンズはこうした知見をふまえて、標準的な課題に「家では私は…」「友だちといると私は…」など状況を限定した課題を日米の大学生に行ってもらった。その結果、日本人は状況が指定されるとアメリカ人以上に抽象的な人格特性を多く記述するようになった。

これらのことから、アメリカ人は状況と切り離して自己をとらえるのに対して、日本人は自己を記述するのに周囲の状況を重視し、状況を特定せずに自己の人格特性を記述するのが困難であることがわかる。

マーカスと北山は、アメリカと東アジアの参加者が示した自己記述の違いは、それぞれの文化での優勢な自己観の違いであるとした。彼らによれば、欧米では個人の自立性を重視した文化であるため相互独立的自己観が優勢となり、東アジアでは他者との関係を重視する文化であるため相互協調的自己観が優勢であるという。

矛盾の許容度

論理を重視する西洋人に比べると、経験を重視する東洋人は矛盾に対する許容度が高い。ペンとニスベットの研究によると、中国語のことわざには逆説的なものが多く、実際にアメリカ人よりも中国人の方が矛盾を含むことわざを好む傾向があることを確かめている。また、矛盾するような2つの文章を米中の大学生に読んでもらい評定してもらう課題では、どちらか一方の文章を読んだ場合は、米中で評定に差が見られないが、両方の文章を読んでもらうと、アメリカ人は一方の文章を説得力がより高いと評定するのに対して、中国人は両方を同じように評定するという。

ブライリーらの研究では、3つの内1つを選択する課題で、選択した理由を述べるよう求めると、アメリカ人は単純な規則で選択を正当化できるものを選び、中国人は中間的なものを選ぶ傾向が強まることを明らかにしている。


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