環境行動

消費者行動は、自己利害に直結するようなエゴセントリックな側面をもつと同時に、社会全体の動向を意識したソシオトロピックな側面ももっている。このような社会全体を意識した行動のひとつに、消費のあり方や消費後の環境配慮を焦点とした環境行動がある。排気量の少ない自動車を選んだり、消費後にゴミの分別やリサイクル可能な商品を選ぶなどの、消費の結果として環境の質が低下し、人の健康が脅かされることを避ける環境リスクへの対応である。


環境リスクが引き起こす社会問題

環境行動は、社会構造に起因するようないくつかの社会問題を引き起こす。そのひとつに社会的ジレンマ事態がある。「自分ひとりが環境リスクに対応しなくても問題ないだろう」というフリーライダー行動を多数の人々が行った場合、環境リスクの解決には至らず、社会的にもマイナスの影響をもたらす。

社会的ジレンマ事態の解決には、構造的解決と個人的解決の存在が指摘されている。構造的解決は、環境リスクの対応に協力することが個人にとってプラスとなるような社会的誘因を与える構造を構築することである。例えば、排気量の多い自動車よりも少ない自動車を所有している方が自動車税が安くなることが実際に行われている。

一方で個人的解決は、個人の認識を変えることで協力行動を促進することである。例えば「このまま行くと近い将来にこのような問題が発生する」「一部の地域では既に問題が深刻化している」などの情報をメディアが頻繁に取り上げることで、問題とその解決方法に関する認知と、リスクへの対処行動として社会的な方向性の認識を高めることができる。その結果、社会規範として確立されることによって、社会的にその行動を促進することができる。

ただ、このような社会問題は実際に影響が確認されるまでは、本当に問題となり得るのかわからない。地球温暖化の問題においても専門家の間では意見が割れている。このような状態でもマスメディアが大々的に報じれば、インパクトの大きい最悪のシナリオが記憶に残りやすいため、利用可能性ヒューリスティックが生じやすい。最悪のシナリオに至る可能性が限りなくゼロに近いものだとしても、人は損失リスクには敏感であるため、リスクを回避する方向へ社会は動き出すことが多い。ただし、これには莫大なコストがかかるという問題も考慮されるべきだろう。

環境リスクと企業

環境リスクへの配慮は、ブランドイメージにも影響を与える。企業が環境リスクを生じさせないような商品を提供することは社会的責任であるという共通の認識が消費者にはある。商品の生産過程で環境リスクを発生させる、あるいはそのような現状においても環境リスクへの対応を取らないような企業は信頼を失う。逆に環境リスクへの取り組みをアピールする企業は、相対的にブランドイメージを向上させることができる。

企業は経済的価値だけではなく、顧客や地域社会への貢献といった社会・環境業績も企業価値として認識され始めている。実際に株式投資においても、企業活動における環境(Environment)、社会問題(Society)、企業統治(Governance)を重視する投資手法であるESG投資が急速に広まっている。

このような環境リスクに対する企業の社会的責任という認識はもともとあったわけではない。日本の高度成長の時期に産業公害による問題が頻発したが、その社会的責任が問われるまでには長い年月がかかっている。このような経験を通して、技術や社会・経済の発展に伴い獲得されてきたものである。


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