自己評価

自己概念は自分がどのような特徴を持っているのかを認知活動を通してとらえたものであり、自己評価はそれを評価したもの、あるいは自己概念を基に行動した結果を評価したものと考えることができる。ただし、評価が自己概念に依存することもあるため、認知と評価を厳密に区分することは難しい。

自己評価を行う場合、何らかの基準が必要になることが多々あるが、人は自分に都合が良い次元を恣意的に用いて判断する傾向があることがわかっている。


社会的比較理論

人は自分の能力や態度などをできるだけ正確に自己評価したいという傾向があるが、客観的な評価基準が見つからない場合もある。このような場合、自分と似たような他者の能力や態度と比較することによって評価しようとする。このような比較過程を社会的比較と呼ぶ。社会的比較理論によると、比較過程には上向きの社会的比較(上方比較)と、下向きの社会的比較(下方比較)の2種類がある。

上向きの社会的比較は自分よりも能力の高い人と比較することで、これは自分を向上させる意欲がわくという利点があるが、自己評価を低下させる危険性も含んでいる。上向きの社会的比較は十分に自尊感情が高まっているときに行われると考えられている。

下向きの社会的比較は、自分よりも能力の低い他者、または自分よりも不幸な状態にある他者と比較することで、自己評価を上げることができる。これは自尊感情の低い人にとって気分を高揚させる効果があり、自己防衛的な過程であると考えられている。

自己評価維持モデル

テッサーは、「他者との関係性が自己評価に大きな影響を与える」「人は自己評価を維持または増大するよう行動する」という2つを前提に自己評価をモデル化し、これを自己評価維持モデルとした。

自己評価維持モデルでは、他者との関係性によって影響する自己評価には、比較過程と反映過程がある。比較過程では、心理的距離の近い他者の遂行が、自分の遂行よりも優れていれば自己評価を下げ、自分の遂行よりも劣っていれば自己評価を上げる。反映過程では、心理的距離の近い他者の遂行が、自分の遂行よりも優れていれば自己評価を上げ、自分の遂行より劣っていれば自己評価を下げる。比較過程と反映過程のどちらが採用されるかは、課題が自分と関連性があるかどうか、つまり重要であるかどうかで決まるとされる。関連性の高い課題の場合は比較過程が、関連性の低い課題は反映過程が働くと考えられる。

まとめると、自己評価レベルを決定する要因は「自己関連性」「遂行の相対的認知」「心理的距離」の3つとなる。人は自己が脅威にさらされたとき自己評価を維持するために「自己関連性を低下させる」「心理的距離を遠ざける」「自己の遂行レベルを向上させる」という予測が成り立つ。テッサーらは小学生を対象にした研究によってこれを示したが、「遂行の相対的認知」に関しては、自分の遂行を高く、他者の遂行を低く歪めて認知することで、自己評価を維持していた。

自己価値確認理論

スティールらの自己価値確認理論によると、人間が維持しようとしている自己評価は、個別の領域での自己評価ではなく、価値のある人間であるという全体的な自己評価である。例えば、失敗などによって自己評価が低下した場合、自己評価を回復しようとするが、必ずしも低下した自己評価領域を回復する行動であるとは限らない。

人は自己評価を回復させるために自分より劣った他者と比較しやすい傾向がある。ただし、自分にとって最も重要な価値が何なのかを確認できていれば、自分よりも優れた他者と比較しても自己評価を低下させず、次につながるような有益な情報を得るということを、スペンサーらは実験によって示している。

自己が脅威にさらされたとき自己価値確認を用いれば、自己評価維持モデルの3つの要因のうちいずれかを変化させなくても、現象を受け入れられることを意味している。実際にいくつかの実験によって、自己価値確認理論を支持する結果が得られている。ただしこれを、「自己関連性の一部の変化」あるいは「自分の遂行レベルを向上させようとする変化」として捉えれば、必ずしも対立する理論ではないことがわかる。

因みに、ここでの自己価値確認(self-affirmation)は、自己肯定化とも訳される。

セルフ・ディスクレパンシー理論

自己評価は必ずしも他者との比較によって行われるものではない。過去や未来の自分、他者あるいは自分が求めている自分と比較することもある。

ヒギンズは、現実の自己が本当はどうありたいかという理想自己と、どうあるべきかという当為自己とのズレが大きいほどネガティブな感情が生起し、このようなズレをセルフ・ディスクレパンシーと呼んでいる。セルフ・ディスクレパンシー理論は、現在の自己と思い描く自己との相対的なズレをみることで、個人の経験や知識、状況によって生起する感情が異なることを説明する理論である。

セルフ・ディスクレパンシー理論によると、現実自己と対比される自己によって生起するネガティブ感情の質が異なるとされる。現実自己と理想自己(自分が理想としている自己)とのズレが大きい場合は、理想や願望が達成されていないことを表すため、落胆や失望といった感情が生起し、現実自己と当為自己とのズレが大きい場合は、義務や責任が果たされていないことを表すため、恐怖や動揺という不安感情が生起しやすい。

継時的自己評価

ウィルソンとロスは、過去や未来の自分との比較においても、現在の自己評価を高く保つために、過去や未来の自分を歪めて評価するメカニズムがあることを指摘し、これを継時的自己評価理論と呼んだ。

継時的自己評価理論によれば、現在の自分と過去の自分とを比較したとき、過去の自分の方が現在の自分より劣っているという判断をしやすい。なぜなら、過去の自分のほうが劣っていると考えることで、現在の自己評価を高めることができるからである。これは主観的時間的距離(精神的に感じる時間)が遠いほど自己評価の差が大きくなることを、ウィルソンとロスはいくつかの研究によって示している。

ただし、現在の自分にとって重要でない領域については、過去の自分の評価を低く見積もることはなかった。これは、過去の自分の記憶をそのまま取り出しているわけではなく、現在の自分の自己評価が高まるように歪められていることを示している。


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