自己動機

人は自己評価を高く維持するような比較基準の選択をしたり歪められた認知を行う傾向があることや、自己評価を下げる危険性があるにも関わらず自分よりも優れた比較対象を選択したりすることを「自己評価」のページで示した。

では、我々はどのような意図で自己評価を行っているのだろうか。このような自己に関わる動機は自己動機と呼ばれ、主に自己高揚動機、自己査定動機、自己一貫性動機の3つが示されている。


自己高揚動機

人が心身共に健康で積極的に社会生活を送るためには、自分自身をある程度肯定的に捉える必要があることが徐々にわかってきている。広い意味で自分自身を肯定的に感じることは自尊感情と呼ばれる。他に自尊心や自己肯定感といった用語が使われることもあるが、ほぼ同じ意味だと考えてよい。

この自尊感情を維持し高めようとすることは自己高揚動機と呼ばれる。自己評価を高く維持しようとする背景には、この自己高揚動機が関係していると考えられている。

ポジティブ幻想

自己高揚動機を満たす方法のひとつとして、楽観的にものごとを把握することが挙げられる。人は現実よりも優れている自己評価や好ましい将来予測、実際以上に周囲を統制できるとする傾向があることはこれまでの研究から明らかである。テイラーらはこれをポジティブ幻想と呼び、程度の差はあっても誰にでもこのような傾向があり、精神的健康や身体的健康を保つのに有益であるとしている。

ポジティブ幻想は、結果的に課題の成績や成功率を高めるとする議論も多くあったが、ロビンズとビアーの大学生を対象にした追跡調査では、入学時のポジティブ幻想の度合いと卒業時の通算成績との間に有意な関係は見られなかった。ただし、ポジティブ幻想の度合いが強いほうが、学業成績が重要だと思わなくなる傾向が見られた。

ポジティブ幻想のような自己理解は、原因帰属のバイアスと関連していると考えられており、自分にとって都合の良い結果が得られた場合には、それを自分自身に帰して自尊感情を高め、自分にとって不都合な結果は、その原因を外部要因に求めて自尊感情を保つ、という自己奉仕バイアス(セルフ・サービング・バイアス)の結果とされる。

一般的に、自己評価が高すぎる場合は自信過剰や自己愛が強いという印象を周囲に与える。ポールハスは、このような人物が周りからどのように評価されるのかを研究した結果、最初は好ましい人物と評価されたが、最終的には否定的な評価を受けるようになった。しかし、その本人の自尊感情は高く保たれたままであった。

要約すれば、自己評価は高すぎても低すぎても何らかの不都合が生じるため、ポジティブ幻想が必ずしも良い結果生むとは限らないということである。

文化による違い

このような自己高揚動機は世界共通のものなのだろうか?特にポジティブ幻想は日本人の多くには当てはまらないと感じた人もいるかもしれない。実際にこれらの研究の多くは欧米(アメリカ人、カナダ人、北部ヨーロッパ人)を対象としている。日本を含むアジアでの研究はそれほど多くはないが、やや異なる結果を示すことがある。

このような、国や地域によって結果が異なるのは個人主義的文化と集団主義的文化による違いだとも言われている。欧米では個人主義的傾向が強く、アジアでは集団主義的傾向が強いことは以前から知られている。一般的に欧米では、外交的で自主性を持ち、自身を持った振る舞いがよしとされる。一方アジアでは、周りと意見を合わせ、強く自己主張してはいけないとする傾向がある。実際に、日本人を対象とした研究では、自己奉仕バイアスを示すことが少ない。

ただし、最近の研究では文化的に重要視されている特性において自己高揚が見られるという結果も得られている。すなわち、個人主義的文化では自立や個性などと関連する特性において自己を過大評価する傾向があり、集団主義的文化では協調性や協力などと関連する特性において自己を過大評価する傾向がある。

この問題に関しては、現在でも議論が展開されている。

自己査定動機

例えば受験生であれば、希望している大学に入れるのか否かについて、自分の学力を正確に知りたいと思うし、スポーツ選手であれば試合に勝つために、自分の悪い部分を正確に把握したいと思うであろう。

一般的に、周りの環境にうまく適応するためには、自分を正確に知っている方が都合が良い。このような観点からオルポートは、自分に対する正確で客観的な態度は望ましいものであり、発達に不可欠なものであるとした。自分をより環境に適応させたり自分の能力を高めるために、正確な自分の姿を把握したいという自己査定動機が働くと考えられている。

自己査定動機は自己高揚動機と矛盾する部分はあるが、自尊感情が脅威に直面していない場合や、変化を起こさなければ近い将来に自尊感情が脅威にさらされることを予測している場合に、自己査定動機が優位に働くのではないかと考えられる。

自己一貫性動機

人は自己を一貫したものとしてとらえる傾向があり、自己一貫性動機と呼ばれる。これは他者の行動や考え方に一貫性がない場合に、その相手を信用できないと判断することに関係しているとも言われている。自己一貫性動機は、認知的不協和と自己確証過程の2つの理論から説明することができる。

認知的不協和理論では、自分の中で矛盾が生じると不快な緊張状態をもたらすため、矛盾を避けるために一貫したものとしてとらえるという。つまり、自分の信念と違う行動をとった場合に自分の中で矛盾が生じ不快に感じるため、認知を変えることによって自分の信念に沿うような行動説明をするのである。

一方、自己確証理論では、自分の世界で起こる現象を予測しようとすることが一貫性への動機であると考える。人は一度自己概念が確立すると、それを確証するような現実を求め、実際にそのように行動したり解釈したりする。これは、自分自身を否定的に評価している場合、そのように行動したり、それと一致した評価をしてくれる人を好むことを予測させる。逆に自分自身を肯定的に評価している場合も同様である。つまり、一度確立された自己概念は自己確証過程によってさらに強固になることを意味しており、ポジティブ幻想を持つ人が周りから否定的な評価を受けても、自尊感情が高いままであったことを説明できる。


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