消費の意思決定

消費者行動の主要な研究対象はやはり購買行動だろう。購買の対象は物だけではなく、電車や飛行機などの移動や、コンサートや遊園地での体験といったサービスも含まれる。近年では、インターネットのプロバイダサービスだけではなく、自動車や電化製品などでも定額制サービスが始まっており、ますますサービスに対する需要も供給も高まっている。

これらの購買の意思決定には、売る側からのさまざまな働きかけも影響を与えている。その製品やサービスを「誰が・いつ・何のために使うのか」「どのような体験ができるのか」などを、マスメディアやインターネットなどを通じて消費者にアピールすることで購買に結びつけようとする。

一方で消費者は、提供される商品の中から最も良いものを選んで購入するというのが理想であるが、必ずしもこのような単純な行動を起こすわけではない。性能や機能、価格だけではなく、原産国やブランド、商品広告の見せ方、あるいは「有名人が使っている」といった商品の価値とは直接関係のない要因によっても、購買行動は左右される。


ヒューリスティック

社会的認知の根幹のひとつともいえるヒューリスティックは、消費者行動の決定にも多用される。購買行動の選択肢と状況は多様であり、すべての情報を使って熟考し意思決定を行うことは不可能であるため、なんらかの形でヒューリスティックが用いられることになる。「新しい機能がついているから」「いつも買うブランドだから」「評判が良かったから」「割引で安かったから」など、大抵はいくつかの指標を用いることによって効率的に意思決定を行っている。

このようなヒューリスティックを用いた判断は最適な選択肢にはならないことが多いものの、後悔することは少ない。多くの人は時間をかけて情報を収集し最適な選択肢を選ぶことよりも、効率的に選択しそこそこの満足が得られることを基準にしているからである。ただし、購買の対象となるものについての知識が豊富であったり高額である場合など、内容を吟味しようとする動機づけの度合いが高い場合にはこの限りではない(詳しくは「説得と態度変容」を参照)。

売る側も、このような消費者心理を利用したマーケティングを行っている。ブランド価値や価格、あるいは顧客満足度や売上がNo.1であることを強調したり、「みんなが使っている」「誰もが知っている有名人も使っている」など、ヒューリスティックを用いる手がかりを多様に提供する。

ブランド価値

企業は商品をグループ化して共通のブランド名をつけたり、企業の名前をブランドとして価値づけるような広告を行っている。ブランド価値が高まれば、新たな商品を同じブランドとして売り出すことによって、個々の商品にブランドとしての価値を上乗せすることができる。日用品のような比較的安価なものであれば「いつも使っているブランド」「よく目にするブランド」ということから、品質に対する安心感や親しみを持つかもしれないし、高額嗜好品などであればブランド名そのものが価値をもっている。

ハロー効果

ブランド名には、ハロー効果としての側面もある。

ハロー効果とは、ある対象を評価するときに特徴的な一面に影響を受けて、他の特徴についての評価が歪められる現象であり、威光効果や後光効果とも呼ばれる。商品広告で有名人を起用することで、その商品がイメージアップするのもハロー効果によるものである。価値の高いブランド名は、この有名人と同じ働きをしているともいえる。

フレーミング

メディア効果論」のページでも取り上げたが、フレーミングは消費者の意思決定にも影響を与える。マスメディアにおけるフレーミングと消費者行動におけるフレーミングは別々に発展したものであるが、提示される枠組みが人々の判断に影響を与えるという意味では同じものとして考えることができる。

消費者行動に影響を与えるフレーミングの代表的なものは、購入した場合の利得を意識させるか、購入しなかった場合の損失を意識させるかによって意思決定がことなることである。これは、「メディア効果論」のページ内で紹介した「アジア病問題」と形式的には同じものである。このことは、カーネマンとトヴェルスキーのプロスペクト理論によって説明される。

フレーミングは必ずしも損得の枠組みであるとは限らない。サービスの過程そのものに訴えるフレーミングや、「環境にやさしい」といった社会的な規範に訴えるフレーミングなどもある。

消費者行動のモデル「AIDMA」「AISAS」

マーケティングの対象として、消費の意思決定行動にはいくつかのモデルが提案されてきた。その古典的なモデルとして知られているのがAIDMA(アイドマ)モデルである。

AIDMAという名称は消費プロセスの頭文字をとったもので、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲望)、Memory(記憶)、Action(行為)の順番に推移していくとされる。消費者に「こういう商品がある」ことを知ってもらうために注意と関心を引き、商品やブランドの名前や機能、あるいはこの商品が欲しいという感情を記憶に残すことで、購買に結びつけるというものである。

比較的最近に提案されたものとしてはAISAS(アイサス)モデルがある。こちらも消費プロセスの頭文字をとったものであり、Attention(注意)、Interest(関心)、Search(探索)、Action(行為)、Share(共有)の5段階を想定している。AIDMAモデルと最も大きく違う点は、購買行動を意味するActionが最後ではないことである。注意と関心を引くまでは同じであるが、消費者はその商品についてより深く知るために、情報収集を行う。その後に商品の購入になるが、購入後には使ってみた感想などをレビューや口コミサイト、SNSなどに投稿し共有することによって、他の消費者の注意と関心を引くという循環するモデルになっている。

AISASモデルでは、探索と共有が購買と密接に関連していることを強調している。実際に多くの商品で、インターネットや雑誌で調べたり、会話やSNSなどで語ることとそれを行った人の購買率の高さは相関するという。

これを心理学的な観点から見ると、まず探索行動には確証バイアスが関係している可能性がある。つまり、その商品の広告する機能や特徴について検索することによって、良い面だけをみることになる可能性である。その結果、商品をより魅力的に感じ、購買行動につながる。もう一つの共有については、自ら情報を発信することによってその商品に関与することになる。そして自分の行動を肯定するために購買行動につながるという可能性である。関与するという意味では、認知資源を消費する探索行動にも当てはまるだろう。ただし、共有に関しては必ずしも商品の良い面だけを語るわけではないので、商品に関することを会話やSNSで語ったとしても、購買行動に必ずプラスの影響を与えるわけではないだろう。


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