説得と態度変容

外的な力に影響されて態度が変化することを心理学では態度変容と呼ぶ。また、他人への言葉による働きかけを説得と呼び、説得のためのコミュニケーションを説得的コミュニケーションと呼ぶ。

態度」と「認知的斉合性理論」のページでは、態度の形成・維持についての基本的な部分を見てきたが、このページでは他者からの説得による態度変容について見ていく。なお、態度の変化とは、既存の態度を捨てて新たな態度を形成することでもあるので、態度の変化と形成はほぼ同義である。


メッセージ学習理論

説得に関する初期の研究アプローチとして、ホヴランドらが提唱したメッセージ学習理論がある。この理論では、説得性をもったメッセージに対して受け手が注意を向け、これを理解して記憶することが不可欠であるとされる。そして、これらの考えに基づき、説得の4要因であるメッセージの送り手、内容、受け手、経路のそれぞれが持つ特徴によって、説得の効果が左右されるという研究が進んでいった。例えば、メッセージの内容に関しては、注意を引きやすいもの、理解しやすいものなどが結果的に記憶に残りやすく説得効果が高いと説明されたり、受け手の要因では知能レベルが高い人は理解力も高いので説得されやすいといった説明が行われた。

メッセージ学習理論は多くの場合に当てはまるように見え、実際に多くの現象を説明できていたが、実証的な研究が進む中でそれほど単純ではないことがわかってきた。例えば、注意を引く広告が理解や記憶の程度を高めたとしても、それが説得効果と常に対応するわけではないのである。極端な話、メッセージの内容をよく理解していなくても、説得効果が高い場合も存在するのである。これについては「ヒューリスティック」や「判断と認知容易性」のページなどを見れば明らかである。

説得の認知反応モデル

態度変容の考え方に重要な影響を与えたのが、アンソニー・グリーンワルドが提唱した説得の認知反応モデルである。このモデルによれば、メッセージが直接態度変容を引き起こすわけではなく、受け手がメッセージを受け取った後に行うセルフトークが態度変容の直接の原因であるとされる。この考え方はメッセージ学習理論のすべてを否定するものではないが、態度変容の考え方に重要な軌道修正を加えることになった。

その後の多くの研究で、メッセージを受け取った後に行うセルフトークの量や、セルフトークがメッセージをどれだけ支持し、受け手がどれだけ確信を持つかに大きく左右されることがわかっている。

認知反応モデルは、メッセージの受け手が受動的に学習するだけではなく、既存の知識を用いて能動的に情報処理をすることを示している。その一つの例として、接種効果と呼ばれる現象がある。これは弱ったウイルスを注射して、病気への抵抗力をつける予防接種に似ていることから名づけられたものである。つまり、説得力に欠けるメッセージを受け取った後で強い説得を受けても、説得されにくいのである。これは、強い説得メッセージがくることを予期しただけでも起こる。

社会的判断理論

シェリフらは、説得メッセージと自分の意見との位置関係によって説得されやすいかどうかが決まると考え、これは社会的判断理論と呼ばれている。この理論では、受容範囲、ノン・コミットメント、拒否範囲の3つの位置関係が想定されている。

説得メッセージが自分の意見に近いとそれを受け入れられると判断し、実際以上に自分の考えに似ていると判断する範囲が受容範囲であり、逆に説得メッセージが自分の意見と異なっているとそれを受け入れられないと判断し、実際以上に異なっていると判断する範囲が拒否範囲である。ノン・コミットメントは受容範囲と拒否範囲の中間に位置する。

対象者が何かに夢中になっている問題に対しては、他の問題と比べて受容範囲が狭くなり拒否範囲が広くなるため、説得は難しくなるとされている。

精緻化見込みモデル(ELM)

説得による認知反応の研究では、態度変容に到るプロセスは単一のルートではなく、いくつかのルートがあると考えられるようになってきた。その結果生まれたのが説得の二重過程モデルである。その中でも最初に提唱され、現在でも代表的なものとして取り上げられることが多いのが、ペティとカシオッポによる精緻化見込みモデル(精緻可能性モデル)である。

精緻化見込みモデルによると、メッセージの受け手はそのメッセージの内容が妥当であるかどうかを吟味しようとする動機づけと、吟味できるだけの認知的能力があるかどうかによって、2つのルートのうちどちらのルートで情報処理が行われるかが決まるとする。この2つのルートは中心的ルートと周辺的ルートと呼ばれている。動機づけや認知的能力が高い状況では、メッセージの内容そのものを吟味する中心的ルートで情報が処理される。ここで態度に変化が起こるには、メッセージの内容に十分な説得力を持っている必要がある。これに対し、動機づけが低かったり、他に処理しなければならない課題や情報があって認知的能力が低下している場合には、周辺的ルートで情報が処理される。周辺的ルートでは、メッセージ内容の説得力にはあまり注意が向けられず、その他の周辺的手がかりと呼ばれる要因によって態度が変化するかどうかが決まる。

動機づけ

動機づけに影響を与える要因については、主に2つが挙げられる。ひとつは個人的関連性である。メッセージの内容が自分に影響を与えるものであるほど、内容を十分に吟味し考えようとする。もうひとつは認知欲求である。メッセージの内容に関係なく、深く考える傾向が受け手にあるかどうかである。

個人的関連性についてはペティらによる研究がある。大学生に「卒業要件として資格試験を導入すべきだ」という説得メッセージを読んでもらい、これに対する賛否を答えてもらった。このとき「資格試験が自分たちの大学で導入されるのか他の大学で導入されるのか」「導入を主張しているのが専門家であるか高校生であるか」「メッセージに説得力があるか否か」を実験的に操作した。これらは「個人的関連性」「送り手の専門性」「メッセージ内容の説得力」に対応している。実験の結果、個人的関連性の低い条件では、メッセージ内容の説得力に関係なく、送り手の専門性だけが説得に影響を与えた。つまり、送り手の専門性という周辺手がかりが説得に影響を与えたことから、周辺的ルートを通っていることがわかる。一方で個人的関連性の高い条件では、送り手の専門性には関係なく、メッセージ内容の説得力だけが説得に影響を与えた。これはメッセージの内容を吟味する中心的ルートを通っていることがわかる。

認知欲求についてもペティ、カシオッポらによる研究がある。アイオワ大学の学部生に、10年後に実施を検討している授業料の値上げについて、説得力の高いまたは低い説得メッセージを読んでもらい、その賛否を尋ねた。これは学生にとって個人的関連性のない問題であるが、認知欲求の高い学生は低い学生よりも、メッセージ内容の説得力の高さによって影響を受けることがわかった。

認知的能力

メッセージを十分に吟味したいという動機づけだけでは中心的ルートを通るとは限らない。深く考えてやり遂げる能力も必要である。研究者は、人が深く考える能力を制限する方法をいくつか考案してきた。例えば、メッセージの要点から注意を逸らしたり、吟味するための十分な時間を与えないなどである。これらの研究の多くは、精緻化見込みモデルを支持する結果となっている。

ヒューリスティック-システマティック・モデル(HSM)

説得の二重過程モデルにヒューリスティックの概念を導入したのが、チェイケンらによるヒューリスティック-システマティック・モデルである。

このモデルによれば、納得できそうな手がかりがあれば、認知資源を節約するためにまずヒューリスティック処理が行われる。ここで確信が得られる、あるいは認知資源が不足している場合には処理はそこで終了することになる。その結果、メッセージの内容を吟味せずに周辺手がかりによって判断されることになる。

ヒューリスティックによる判断では確信が得られない場合や、十分に認知資源を使える状況では、メッセージの内容を深く吟味するシステマティック処理が行われる。ただし、システマティック処理が行われるかどうかは、さまざまな種類の動機づけが関係していると考えられている。

2つの処理過程を想定しているという点では精緻化見込みモデルと類似しているが、精緻化見込みモデルではメッセージの内容で判断するかそれ以外の情報で判断するかに重点が置かれているに対し、ヒューリスティック-システマティック・モデルでは得られた情報がどう処理されるのかという情報処理の精緻さに重点が置かれている。具体的には、周辺手がかりが判断に用いられたからといって、ヒューリスティック処理が行われたとは限らないのである。


参考書籍
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