差別化

厳密な意味で、製品間に違いがないということはあり得ない。姿かたちが全く同じで機能や価格も同じだとしても、作っている会社が違えば買い手はブランドの違いを認識する。同一ブランドで同じ機能しか持たない製品でも価格が違えば価格の高いほうを品質が良いと認識することもある。つまり、差別化とは買い手の相対的な評価であり、製品が差別化されているかどうかは買い手が決めるものである。

差別化の概念はマーケティングでも使われるため混同して用いられることが多く、その境界線もないに等しい。経営学における差別化はマーケティングを内包していると言ってもよいが、マーケティングは会社の方針や組織文化を土台として、買い手に対してどのように商品を見せるかに焦点が当てられており、生産プロセスなどの価値活動には言及していない。なぜなら、マーケティング自体も価値活動の一つだからである。

一方、経営学における差別化は、どのように差別化された製品やサービスを作り出すのかということに焦点が当てられている。ただし上でも書いた通り、開発者がいくら差別化されている製品だと思っていても、買い手がそう思っていなければ差別化されていないわけであるから、マーケティングも差別化の重要な要素であることには変わりはない。


差別化の推進要因

差別化とは言葉を変えれば「他の企業の製品やサービスとは異なる何か」である。それは結果として現れるものであるが、それをどのように実現するのか知るにはバリュー・チェーン分析が役に立つ。その異なる何かは価値活動の違いであるともいえる。

マイケル・ポーターは『競争優位の戦略』の中で、以下のような差別化の推進要因を挙げている。

これらの要因のうちどれかひとつだけで成り立つ差別化はおそらくない。なぜなら、すぐに模倣されてしまうからである。複数の要因が組み合わさることで大きな効果と模倣困難性が高まり、その企業でしか創造できない価値が生み出される。

ポリシー選択

製品のほとんどの部分が平凡だとしても、何か一つだけとびぬけた特徴を持っていれば差別化となり得る可能性を持っている。このような特徴は会社の理念やポリシーなどが土台となっていることが多い。製品の品質を重視するのか、製品以外のサービスを重視するのか、あるいは新しい製品を次々と作り出すスピードを重視するのかといった活動の違いが、結果として製品の機能や性能に表れるかもしれないし、付随するサービスやブランドイメージに表れるかもしれない。

連結関係

価値活動間の連結関係をうまく調整することによって、受注から買い手に製品を届けるまでの時間を短縮できたり、製品の不良率または不良の見落としを改善したりもできる。これらは同じ方法をとったとしても企業によってどのような影響が出るかは異なってくるため、実際に試してみてうまく調整する必要がある。

また、供給業者やチャネルとの連結関係を調整することでも差別化を生み出すことができる。

タイミング

技術などの先発会社は、供給業者やチャネル業者と独占的な契約を結ぶこともできるし、買い手に対してのブランドイメージの向上などの効果を得ることもできる。

逆に後発会社は、先発会社の方法を模倣できたり最新の技術を採用するといったこともできる。

立地

実店舗が主要な幹線道路沿いにあれば、買い手は立ち寄りやすいし広告効果も期待できる。また、実店舗の場合は買い手の地域性も差別化に影響を与える。アメリカのスーパーマーケットチェーンのウォルマートは、あえて顧客密度の低い小都市に店舗を構えることで、大手にはできなかった新たな顧客を開拓している(これにはもちろん他の要因も関係している)。

相互関係

他の事業で使われている技術やノウハウを応用することで、差別化を果たすこともできる。これは多角化企業だけではなく、他の関連会社と共同することによっても実現できる。

習熟

特定の価値活動やバリュー・チェーンは、習熟によって最大限の効果を発揮し差別化を生み出すこともある。また、習熟することによってその価値活動やバリュー・チェーンでは解決できない問題や限界が見えてくるので、新たな差別化の源泉が生み出されることもある。

統合

自社内でどこからどこまでの活動を行うのかが差別化を生み出すこともある。例えば、製品の開発から製造、販売までを自社内で行えば、買い手に対して深い知識と一貫したサービスを提供できるし、買い手の要望に柔軟に対応できるような体制をつくることができる。

規模

規模が大きいと、小規模では利益の出ないような方法をとることもできるが、規模が大きいことが逆に不利に働くこともある。変化の激しい業界の場合、新たな製品や技術が次々と出てくるため、規模が大きいとそのスピードについていけなかったり、規模に見合う十分な売り上げが期待できないことで参入できなかったりする。

制度的要因

会社の制度や業務規定に特異性を盛り込むことによって差別化されることもある。ポリシー選択の一種ともいえる。

買い手の価値

どれだけ他の企業と違うことをしても、買い手にとって価値がなければ差別化とはならない。買い手に他の製品では得られない独自の価値を提供することによって、高いマージンが得られるのである。

買い手がその製品をどのように使っているのか、その製品に対してどのような不満を持っているのかを知ることは、差別化を考えるうえで非常に重要なものとなる。買い手のバリュー・チェーンに良い影響を与えるものが、買い手にとっての価値を持つものなのである。

買い手の価値は大きく分けると、買い手のコストを下げるものと、買い手の実績を上げるものとがある。

買い手のコストを下げるのは単純に価格が安いというだけではなく、例えば自動機械を導入することによって人件費を削減できたり、より小さな機械を使うことによって少ないスペースで生産ができるようになり、土地や建物などのコストを下げるなどの間接的な影響も含まれる。これは買い手が個人の場合でも同じで、今では一家に一台はある洗濯機や掃除機などの電化製品も、もともとは買い手のコストを下げるものであったし、近年では洗濯と乾燥を一台で行えるものや自動掃除ロボットなどの製品もあり、これらも多くの買い手にとってはコストを下げるものといえる。

この他にも配送料や、設備や機器の据付、故障したときのサービスなども買い手のコストに影響を与える。

一方、買い手の実績を上げるものは、コスト以外でのニーズ(必要)やウォンツ(欲しい)を満たすものである。例えばテレビの場合、情報を得るという目的だけであれば極端な話、白黒テレビでも大きな問題はないはずであるが、多くの人はより画質が良い鮮明に映るディスプレイを求める。さらに近年ではリアリティを求めて3D映像などの技術も開発されている。これらはもともとウォンツがあったというよりは、技術の発展に伴いこういう製品をつくることが可能になったという情報を得ることによってウォンツが高まったといえる。もちろんウォンツに合わせて製品が開発されることもあるが、どちらかというと少数であると考えられる。

買い手の実績を上げるものは製品の機能だけとは限らない。同じ機能を持つ製品でもより認知度の高いブランドの製品を購入することで、高い満足度が得られる人もいるし、流行に乗り遅れないために購入する人もいる。

ここからもわかるように、何がウォンツを満たすのかは人によって異なるため、誰をターゲットにするかという問題は非常に重要になってくる。この辺りはマーケティングの領域になってくるが、どんなに優れた技術で優れた製品を作っても、誰をターゲットにするのかが間違っていると平凡な製品になってしまうのである。


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