多角化

複数の事業を自社内で保有している企業は多角化企業と呼ばれる。多角化と一口に言っても、その捉え方はさまざまである。単純な指標としては、ひとつの企業がいくつの事業を営んでいるかというものがあるが、経済的な価値や競争優位性という観点からみた場合、それぞれの事業がひとつの企業のように独立して存在していたり、事業間に関連性がなかったりすると、多角化のメリットは低減するとされる。


多角化戦略の種類

多角化のひとつの分類方法としては、事業の数の他に事業間に何らかの要素を共有しているという関連性を含めるものがある。

ジェイ・バーニーの『企業戦略論【下】全社戦略編』では、企業が取り得る多角化戦略を、総売上高の割合と事業間の関連の有無によって「限定的多角化」「関連多角化」「非関連多角化」の3種類に分類している。

限定的多角化は、企業が複数の事業を営んでいるものの、そのほとんどが同一業界に属しているか、あるいは総売上高がひとつの事業に集中している場合である。具体的には、総売上高の95%以上が同一業界からのものである「単一事業型」と、70%以上95%未満である「主要事業型」の2つに分類される。限定的多角化は、比較的多角化レベルの低い企業戦略である。

関連多角化は、総売上高の70%未満が同一業界からのもので、複数の事業でリンクや共通特性を共有している場合である。さらに、リンクや共通特性を数多く共有している場合を「関連限定型」とし、共有している度合いがわずかである場合や、各事業間でリンクや特性が異なっている場合を「関連連鎖型」としている。

最後の非関連多角化は、関連多角化と同様に総売上高の70%未満が同一業界からのものであるが、事業間にリンクや共通特性がほとんどない場合である。

多角化の経済的価値

多角化が経済的価値を持つためには、範囲の経済が存在し価値を持たなければならない。範囲の経済を簡単に示すと、各事業がそれぞれ独立して活動した場合の合計よりも、複数の事業を1社で経営した場合の方が価値が大きくなることである。

範囲の経済は通常、活動の共有か、核となる技術の束であるコア・コンピタンスの共有によって成り立つ。

複数の事業間で共有可能な活動を見出すにはバリューチェーン分析が有効である。活動を共有できるということは、コスト削減や売り上げの増大によって企業価値を増大させる。

コア・コンピタンスは、活動の共有とセットで存在する場合もあるし、独立している場合もある。活動の共有がなされていない場合、一見すると非関連多角化に見えるが、コア・コンピタンスを共有している場合は、単一事業の企業と比べるとコスト的に優位に立つか、より多くの売り上げを得るか、あるいはその両方が期待できる。

ただ、範囲の経済は、多角化ではなく2社の提携によっても成り立つので、範囲の経済の存在だけで多角化すべきであるわけではない。多角化が経済価値を持つもう1つの条件は、提携を含むその他の統治形態よりも、企業内部で複数の事業を行う形態の方が低コストで済むことである。

活動の共有

どんな活動が共有できるのかについての出発点は、上述したように価値連鎖(バリューチェーン)を見るとわかりやすい。2つの事業間において、多くの場合に活動を共有することは可能である。ただ、共有化には複雑化することによる事業間の調整などのコストがかかるため、このコストを上回るコストの低減が必要である。そして、コスト低減の要因は規模の経済や習熟、キャパシティ利用のパターンによることが多い。これについては「低コスト化」のページに記載している。

活動の共有は差別化にも作用する。単一事業の企業と比べれば、活動の特異性を高めて差別化を強化できるのと、差別化のコストを下げることができる。

活動の共有化のコスト

活動を共有することは何らかの変化を伴うことでもあるので、必ずコストがかかる。かかるコストを分類すると「調整コスト」「妥協コスト」「非柔軟性コスト」の3つがある。

調整コストは、事業間の調整にかかるコストや、活動が複雑化し効率が低下するなどのコストである。活動を共有すれば、計画における優先順位や問題解決などにおいて事業間で調整が必要になる。また、活動があまりにも複雑化すれば、規模の経済や習熟の効果が薄れたり、これらの効果が得られるまでに時間がかかることもある。

妥協コストは、複数の事業における活動を同じやり方で進めようとすることで生じる妥協のコストである。これは、それぞれの事業で最適な方法は異なることがあるため、一方の事業あるいはすべての事業が妥協する必要が出てくる。これは、活動の複雑化を避けるための方法とも言えるため、事業間で最適な方法にあまりにも違いがある場合は、調整コストか妥協コスト、あるいはその両方によって共有化する利点が失われる可能性もある。

非柔軟性コストは、状況の変化にすぐに対応できないことである。一方の事業環境で何らかの変化があり最適な方法が変わってしまった場合でも、事業間における調整コストや妥協コストのバランスを保つために、すばやく対応することが難しくなる。このコストのバランスを崩してしまえば、活動を共有する利点が失われる可能性があるからである。

コア・コンピタンスの共有

コア・コンピタンスとは、経営上のノウハウや技術上のノウハウ、経験や知識などによって各事業をリンクさせる、経営資源やケイパビリティの集合体である。

一般的に見れば、多角化しようとする企業は既存の事業をある程度成功させているわけだから、経営陣は経営に関するノウハウを持っている。単純に考えて、単一の事業で起業する場合と比べれば、明らかにコスト的に優位である。また、技術上のノウハウを共有できるのであれば、これを持たない企業と比較すると低コストかあるいはより大きな売り上げを実現することができる。

もちろん、他の事業でそれらのノウハウが使えるかどうかは、組織体制や業界構造にもよるので、必ず優位に働くとは限らない。また、コア・コンピタンスは思考の枠組みであるとも言えるため、一方の事業環境に変化があった場合に柔軟に対応できない可能性もある。


参考書籍
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