技術開発

技術の変化は、価値活動を変え、最適な価値連鎖を変化させることもあるし、それによって業界構造さえも変化させることがある。技術的変化の激しい業界では、これまで名前も知られていなかったような企業が、その業界のトップに躍り出ることも珍しいことではない。

企業活動にはさまざまな技術が使われている。技術というと製造部門での先端技術などに注目しがちであるが、ここでは活動を行うためのノウハウや手順、管理方法や情報システムなども技術に含める。すると、購買や出荷、販売やサービスなどあらゆる価値活動に技術は使われており、価値活動自体を技術の集合体として捉えることもできる。


技術と競争優位性

異なる価値活動に使われる技術は関連していることがある。一方の技術が別の価値活動の技術を左右することや、2つの価値活動をつなぐ役割を果たすような技術がそれである。極端な場合には、価値連鎖全体に影響を与えたり、価値連鎖全体の編成を変えなければならないこともある。

このような他の価値活動と関連するような技術が実際に用いられるかどうかは、生産規模や他の価値活動の技術水準などによって左右されることがある。特定の生産規模でないと効果が小さいものや、他の価値活動の技術水準が低いために新技術を導入できない場合などである。

ある一つの技術が低コスト化や差別化の要因になっており、その技術が他の価値活動に影響を与えないならば、模倣するのが比較的容易であるため、それが持続的な優位性をもたらすことは少ない。逆に、複数の技術によって低コスト化や差別化が成り立つ場合や、価値連鎖に影響を及ぼす技術は、その要因を特定するのが難しいことや、特定できたとしても複数の技術を同時に開発しなければならないことから模倣が困難になる。この場合、価値連鎖だけを模倣しても優位性は得られないし、特定の技術だけを模倣しても効果がないか限定的である。

とはいえ、技術変化そのものが低コスト化や差別化を高め、その技術を持続的にリードできる場合は優位性をもつといえる。この場合、競争相手に模倣されたとしても、模倣が追いつかないほど次々に技術革新を行うことが求められる。

たとえ模倣されたとしても、技術的先行者として買い手から認知されれば差別化をはかることもできるし、業界内においてもリーダー企業としての地位が得られることもある。また、その技術によって業界構造全体が改善される場合は、模倣されたとしても、それはそれで望ましい変化である。

技術のリーダーシップ戦略と追随戦略

技術開発において最も重要であると思われる選択は「何を開発すべきか」と「いつ開発すべきか」の2つであろう。「何を開発すべきか」についての大枠は上述したとおりである。「いつ開発すべきか」とは、技術的にリードする先発者となるか、その先発者に追随する後発者となるかということである。

一般的に見た場合どちらの方法をとるのかは、競争業者に対してどれだけ技術リードを持続できるのかと、先発者になるとどんな利点と不利な点があるのかに基づいて行われるだろう。なお、ここでの技術とは、業界構造を変化させるような技術に限られる。

技術リードの持続力

技術リードを持続させる条件は、大きく分けて2つある。ひとつは模倣困難性である。上述したように、複数の技術の相互作用によってその技術の効果が高められている場合、優位性の要因となっている技術を特定するのが困難であるし、特定できたとしても模倣コストが非常に高い場合や、技術が特許などで守られていて使えない場合は模倣することが困難となる。

ただし、これらは短期的に見た場合の模倣困難性であり、中長期的に見た場合にはそれほど困難性を伴うわけではない。また、特許などは公開されるため、代替技術の開発のヒントになる可能性もある。これらの模倣困難性は、模倣されることを引き伸ばすための延命措置にすぎないため、これだけで技術リードを持続できるわけではない。

技術リードを持続させるもうひとつの条件は、競争相手が追いつけないほど次々と技術革新を行うことである。これには開発される技術そのものの良し悪しというよりは、技術を継続的に生み出すシステムの方が重要になる。このようなシステムは、研究開発部門だけで行われがちになるが、社内の価値連鎖すべてに情報の流れができるようなものでなければ、継続的に技術を生み出すのは困難になる。

経営戦略論では、どのような技術を開発すべきかというテーマでの議論はあるが、技術を継続的に生み出すシステムをどのようにつくるのかについてはあまり語られることはない。理由はいくつか考えられるが、ひとつは、技術の開発は組織内部だけで完結するため、戦略とは直接関係がないためと考えられる。つまり、組織論で議論されるべきテーマであるということである。もうひとつだけ挙げれば、十分な基礎的研究がないということだろうか。

先発者利益

地位

先発者は、技術先行者やリーダー企業という地位や名声を得ることができる。たとえそれが一時的なものだとしても特異な立場に立てたり、長期的なイメージとして定着することもある。

設備や原材料などの入手

先発者は、新たな技術が広まる前に、設備や原材料などの入手経路を確保することができる。新しい技術が広まった後では価格が高騰することがあるので、その前に有利な条件で取引契約を結べる。

切替コスト

先発者は、競争業者が参入してくる前に顧客を取り込むことができる。これは切替コストの高い製品やサービスの場合、大きな強みとなる。

規格の設定

先発者は、製品や技術に関しての標準的な規格を設定できることがある。追随する企業はこの規格に合わせて製品を設計しなければならないため、経験曲線においても先発者に追随することになる。

制度

先発者は、特許などによって技術を守ることができるし、競争業者と技術の使用を認める契約を交わすことによって、そこから収益を得ることもできる。また、政府から補助金が出たり特別待遇を受けられることもある。

初期利益

新しい製品やサービスでは競争相手が少ないため、競争相手があらわれるまでの期間顧客を独占することができる。需要が多く供給が不足すれば高価格でも契約できることもある。

先発者の不利益

パイオニア・コスト

先発者が上述したような利益を得るためには、多額のパイオニア・コストを負担する必要がある。パイオニア・コストは、技術革新のタイプの他に、その技術に関連する情報の流通量、政府の規制などの状況によっても大きく変動することがある。

一般的なパイオニア・コストは、法的規制を満たすことや行政の承認を得るためのコスト、買い手を教育するコスト、設備や原材料など必要な資材の開発コストなどが挙げられる。

需要の不確実性

上述した先発者利益は、買い手の需要があってこそ成り立つものである。先発者は製品やサービスを開発し、販売やサービスの開始あるいはそれに先立つ契約を行うことによって確実な需要の情報を得ることができる。つまり、投資に対して需要の不確実性というリスクを負うことになる。これに対して追随する企業は、確実な需要の情報を得てから投資をすることができるため、リスクは少ない。

技術の非連続性

革新的な技術が登場しても、先発者は既存の技術に投資をしているため簡単には移行できないことがある。既存のものと全く異なる設備やノウハウが必要になるような技術の場合は特にそうである。技術変化の激しい業界ではよく見られる現象である。

模倣品

先発者は、新技術を使った製品と同じニーズを満たす低コストな模倣品をつくる追随者があらわれるリスクを負うことになる。模倣品の品質が劣るものだとしても、それが買い手の許容範囲であれば、追随者にシェアを奪われることになる。


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