国際化
1つの事業を営む企業でも、地理的に異なる複数の市場で事業活動を行うことは、経営資源やケイパビリティを共有することができる。この地理的に異なる複数の市場というのが国境を越えるものであるならば、それは国際化と呼ばれる。
国際化は、同一の事業を異なる国や地域で行うわけだが、それぞれの国や地域に製品やサービスを合わせなければならないこともあるため、マーケティングや製造工程などの価値活動が異なる場合も少なくない。つまり、それぞれの国や地域で別々の事業を行っているとという見方もできるので、国際化とは多角化の特殊なケースであると考えることができる。
国際化の経済価値
「多角化」のページでも見たように、国際化(多角化)が経済価値を持つためには、範囲の経済を活用していなければならないことと、提携やその他の統治形態よりも低コストで済むことである。
国際化において特に重要な範囲の経済は、以下の4つである。
- 新規顧客の獲得
- 安価な生産要素の獲得
- 新たなコア・コンピタンスの形成
- 既存のコア・コンピタンスの新たな活用
新規顧客の獲得
国際化を実施する最も一般的な動機は、既存の製品やサービスによって潜在的新規顧客を獲得することである。国外市場の顧客に既存の製品やサービスがそのまま受け入れられるのであれば、直接企業の売上高を増大させる。また、その生産プロセスに規模の経済が働くのであれば、コストの削減にもつながる。
各国の製品ライフサイクルのズレによって技術的に優位に立てることもある。つまり、一方の国で成熟期や衰退期に入っている製品の技術を、導入期や成長期にある国の製品へ適用することができるということである。
安価な生産要素の獲得
国際化は新規顧客へのアクセスが重要であるのと同様に、安価な生産要素を獲得することも重要である。安価な生産要素としては原材料や労働力が一般的であるが、国外の企業と提携することによって、技術も低コストで学ぶことができる場合もある。
新たなコア・コンピタンスの形成
国外市場で事業を始めることによって、自社の強みと弱みをより深く理解することができる。また、新たな競争環境にさらされることによって、既存のコア・コンピタンスが強化や修正されたり、新たなコア・コンピタンスが形成されることもある。ただし、これらは国外市場での経験を学習することによって得られるものであり、国外市場に進出すれば自動的に学習できるというものではない。
企業の学習能力を左右する要因としてまず挙げられるのが、その市場で何を・何のために学ぼうとしているのか明確な意図を持っているかどうかがある。意図が組織のメンバーに周知されていなければ、せっかくの学習機会を逃してしまう。
提携するパートナーがいる場合には、その関係性も学習においては重要である。提携企業が開放的であり透明性が高いほうが学習できる可能性は高まる。これには組織の文化や哲学が背景にあるので、提携企業の地域的な文化や組織哲学についても知っておく必要がある。
「学習する」というのは行動の変化であり、これまでに学習したものを捨てるということでもある。これは「アンラーニング(学習破棄)」と呼ばれることもある。組織的な行動パターンの変化を許容できる(変化に対して寛容である)管理システムと、それを支えることができる経営資源がなければ、学習されないまま放置されることになる。
既存のコア・コンピタンスの新たな活用
同一の製品やサービスではなく、同一のコア・コンピタンスを使って異なる製品やサービスを提供する方法である。既存の技術を使って、その国や地域に合わせた製品やサービスを作るということである。これについては「多角化」のページでも記載している。