業界の細分化

同一の業界内でもセグメントごとに分割していくと、各競争要因の力関係は異なることがある。これは、業界内のどのセグメントを選択するのかによって、最適な価値連鎖や買い手の購入基準が異なる可能性があることを意味している。

業界細分化とは、業界を小単位に分割しその構造を明らかにすることによって、「どこで戦うのか」と「どのように戦うのか」を見直したり、新たな戦略を立案することを目的としている。似ている概念に市場細分化というものがあるが、市場細分化は主に価値連鎖の中のマーケティング活動に焦点を当てているのに対し、業界細分化はマーケティング活動を含む価値連鎖全体を対象にしている。

業界の分割方法は多種多様になるが、製品や買い手の間の構造的魅力度や競争優位の条件の違いが業界セグメントをつくるため、製品や買い手の違いが構造や競争優位に影響を与えない場合は分割する必要はない。マーケティングにおける市場細分化では「何を誰が買うのか」は重要な要素になることがあるが、戦略上の業界細分化では価値連鎖全体に影響を与えないものを分割してもあまり意味はない。


細分化変数

業界セグメントは、製品の品種とそれを購入する買い手との組み合わせによって決まるため、個々の製品グループや個々の買い手グループはすべてセグメントになる。ただし、セグメント間の僅かな違いは価値連鎖にも僅かな影響しか与えないので、基本的には主要な差異に基づいてグループ化するほうが良い。

マイケル・ポーターは『競争優位の戦略』の中で、観察可能な細分化変数として以下の4つを挙げている。

製品セグメント

製品セグメントは、業界内で生産されているかあるいは生産される可能性のあるすべての製品タイプを区別する。個々に販売される製品の他にも、まとめて販売される製品グループも独立した品種として扱う必要がある。これは、製造、物流、マーケティングなど価値連鎖の全体に影響を与えるためである。同様に、製品とサービスがセットで販売されるものと別々に販売されるものも、それぞれ別の品種として扱う。

このように考えると、業界によっては品種一覧表は膨大な量になるが、価格、性能、機能の数などは相互に関連している場合も少なくない。これらが同じ価値連鎖の違いを指しているのだとすれば、それをひとつの製品差異としてみることもできる。

買い手のセグメント

買い手のセグメントは、その業界の販売先となるすべての購入者タイプを、構造や価値連鎖の重要な差異に基づいて分類する。

買い手を分類する方法は幾通りもある。買い手が個人なのか法人なのか、製品がどのように使われるのか、買い手の規模や財務力、購入頻度や発注パターンなどが一例である。製品セグメント同様、いくつかの分類基準が相関しあっているならば、それをひとつの変数としてみることもできる。

チャネルのセグメント

チャネルのセグメントは、製品が買い手に届けられる既存のチャネルと、将来使える可能性のある潜在的なチャネルを識別し分類する。チャネルは、発注規模や配送範囲、リードタイムなど価値連鎖のコストに直接影響することもある。

チャネルのセグメントの一般的なものは、直販なのか流通業者を経由するのか、通信販売なのか小売店を経由するのか、卸売業者なのか小売業者なのか、会社の系列ルートなのか否かなどがある。

地理的セグメント

地理的立地は、コスト要因として直接影響を与えるだけではなく、買い手に到達するまでの価値連鎖にも影響を与える。また、その地域の慣習や気象、政府の規制などの違いによる製品特性に対するニーズの違いをあらわすこともある。

まず、物理的な場所の違いは、コストや時間の関係から輸送手段も異なってくる。これは単純にコストだけで選択されるものではなく、緊急を要するようなものなのかという買い手の性質にもよるので、当然価値連鎖にも影響を与える。

また、気候の違いは、製品に必要とされる特性が違うこともある。例えば、さまざまな気候に対応した製品ではなく、特定の気候に特化した製品特性をもたせることで低コスト化や差別化できることもある。これは、その地域の慣習や制度的な違いにも同じことがいえる。

集中戦略

集中戦略は、セグメント間に価値連鎖の差異があることによって成り立つ。この差異は、企業の最適な価値連鎖の差異、あるいは購入基準の差異につながる買い手の価値連鎖の差異を根拠としている。したがって、集中戦略をとる企業は複数のセグメントをターゲットにする企業よりも、コストや差別化の観点から優位性を獲得しやすいといえる。

集中戦略の対象として妥当性のあるセグメントとは、まずはその企業にとって十分な利益が得られることである。そのセグメントの成長性が高いなど、固定費を上回る最低限度の売上料を確保できることである。2つ目は規模の経済性が小さいことである。規模の経済性が高いと広ターゲット戦略を行う企業のほうが、コスト的に優位になるからである。

広ターゲット戦略

セグメント間で価値連鎖に違いが出ない場合、特定のセグメントに集中するよりも複数のセグメントをターゲットにしたほうが、戦略的には優位性を生む。また、価値連鎖に違いがあったとしても、コストや差別化を犠牲にしないような柔軟性の高い価値活動を開発したり、価値連鎖の違いを上回る利点があるならば、複数のセグメントをターゲットとすることもできる。

ただし、複数のセグメントを同一の価値連鎖で賄う方法は中長期的に見た場合、柔軟性を欠き、撤退にかかるコストが高くなることもあるため、魅力のないセグメントも相手にし続けなければならないということが起こる。

一般的には、広ターゲット戦略は資金力の高い企業が、新規参入業者から魅力のあるセグメントを奪われないようにするための障壁として使われるか、あるいは新市場など細分化することが困難な業界において行われる。


参考書籍
おすすめの実用書
経営学カテゴリー
経営戦略論
トップメニュー
物理学