感情と認知

私たちは日常的な経験から「楽しいから笑う」「悲しいから泣く」と考えている。つまり、感情の生起によって表情が変化するという順序であるが、心理学では「笑うから楽しい」「泣くから悲しい」ということが数々の研究から示されている。表情の変化が感情を生起させるのである。


表情と認知

ストラックらは、ボールペンを縦にして唇に触れないよう歯でくわえる群と、ストローをくわえるようにボールペンを唇でくわえる群に分けて、その状態で漫画を読んでもらい、漫画の面白さを評価してもらった。すると、ボールペンを唇でくわえる群よりも歯でくわえる群の方が、漫画を面白いと評価したのである。

実際にボールペンをくわえてみるとわかりやすいが、歯でくわえると笑顔に近い表情になり、唇でくわえると笑顔とは遠い不満の表情になることがわかる。つまり、笑顔で漫画を読むとより面白いと感じるようになるのである。ボールペンを縦にくわえるよりも横にして歯でくわえた方がより口角が開き笑顔に近い状態となるため、こちらの方法でも実験が行われており、同様の結果が得られている。

表情と評価に関する実験は様々なものが行われており、例えば「ヒューリスティック」のページの利用可能性ヒューリスティックの中で示したような、自己評価に関する研究がある。このページで示した研究では、自己主張の強い行動を取った例を6個書き出す群と12個書き出す群では、12個書き出す群の方が自分の自己主張の度合いを低く評価したというものであった。ステッパーとストラックの研究では、すべての実験参加者に自己主張の強い行動をとった事例を6個書き出してもらうが、このときに頬の筋肉をゆるめて微笑を浮かべる笑顔群と、眉間にしわを寄せるしかめ面群にわけて行ってもらった。すると、しかめ面群の方が自己主張の度合いを低く評価したのである。これは笑顔よりもしかめ面をする方が認知的な負荷が高まり、事例を思い出しにくくなるからではないかと考えられている。

反事実的思考

メドヴェックらは、1992年のオリンピックの動画を分析し、銅メダリストのほうが銀メダリストよりも幸せに思っていることを発見した。これは、起こったかもしれないという反事実的思考が関係していると考えられている。銀メダリストは、もう少しで金メダルを取れたかもしれないという残念がる気持ちや、パフォーマンスに対する後悔の気持ちを持つのに対し、銅メダリストは、ちょっとしたミスでメダルを取れなかったかもしれないという安堵の気持ちがあるというわけである。

私たちは遺伝や文化の影響もあり、同じ出来事に対して同一の感情が生起すると感じられてしまうが、実際には出来事に遭遇したときのまわりの環境の解釈の仕方、現在の生理的な状態、自分の感情の把握の仕方によって、感情は大きく影響を受けるのである。


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