欲求不満
適応機制
欲求が何らかの障害によって満たされない状態を欲求不満という。人は欲求不満になると心理的安定性を保つために欲求不満を解消しようとする行動に出る。このような行動は適応機制と呼ばれ、攻撃、逃避、防衛の3つに大別することができる。
攻撃
欲求不満を解消するための最も直接的な方法は、その障害を攻撃することである。攻撃は、先輩や上司に注意された場合に反抗的な態度をとるなどの直接的な攻撃だけでなく、本人のいないところで悪口を言ったり、無関係な人にあたりちらしたりする間接的な攻撃も含まれる。
攻撃は必ずしも悪いというわけではなく、対等な人間関係を築くために適度な攻撃が必要な場合もある。
逃避
欲求不満を引き起こしている障害から逃れようとすることを逃避という。仮病を使うことで抱えている問題から逃れようとすることも逃避といえる。
逃避は、抱えている問題から一時的に逃れることはできるが、欲求不満を直接解決するものではない。
防衛
精神分析学の創始者ジークムント・フロイトの娘であるアンナ・フロイトは、防衛機制という言葉を用いて、自我を防衛するための行動を説明している。
- 退行…幼い時期の発達段階へ戻り、低次な行動をとる。
- 抑圧…苦痛や不快な感情、記憶などを意識から締め出す。
- 反動形成…自分の本心と反対の言動、行動をする。
- 隔離(分離)…思考と感情、感情と行動を切り離す。
- 打ち消し…不安や罪悪感を別の行動や考えで打ち消す。
- 投影…相手への感情や欲求を、相手が自分に対して向けているものと思う。
- 同一視…優れた相手の属性を自分のものとして取り入れる。取り込む。
- 自己への向き換え…相手に向かう感情や欲求を自己へ向け換える。
- 逆転…感情や欲求を反対のものへと変更する。
- 昇華…反社会的な感情や欲求を、社会的に認められるものへと置き換える。
- 置き換え…欲求が満たされないと、要求水準を下げて満足する。
葛藤
誘因が複数ある場合、人はどの行動をとるかなかなか選択することができない。このような状態は葛藤と呼ばれる。
心理学者のクルト・レヴィンは、魅力的な要因である正の誘意性(誘発性)と魅力的ではない嫌悪や不快感の要因である負の誘意性(誘発性)との組み合わせによって、葛藤を3つのタイプに分類している。
接近-接近の葛藤
2つ以上の正の誘意性をもっており、どれか1つを選ばなければならない葛藤状態。例えば、買いたいものがいくつかあるが、金銭的理由によりどれか1つしか買えないような状態が挙げられる。どれか1つを選んでしまえば選んだ方の魅力度は増し、葛藤は解消する。
回避-回避の葛藤
2つ以上の負の誘意性をもっており、どれも簡単には逃れられない葛藤状態。例えば、やりたくない仕事を押し付けられたが、やらなければ上司に叱られるというような状態が挙げられる。
接近-接近の葛藤と比べると解消されにくく、決定に時間がかかることが多い。
接近-回避の葛藤
1つの目標に対して正の誘意性と負の誘意性の両方をもっており、なかなか行動に移せない葛藤状態。例えば、お腹いっぱい食べたいが食べれば太ってしまうというような心理状態。
- 『社会心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2010)
- 『Social Psychology: Goals in Interaction (6th Edition)』 Pearson(2014)
- 『心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2004)
- 『パーソナリティ心理学―全体としての人間の理解』 培風館(2010)
- 『社会心理学へのアプローチ』 北樹出版(2000)