動機づけとは
人がなぜそのような行動をとったかを分析することは、心理学において中心的なテーマであり、その過程としてまず最初に行動の動機づけが考えられる。動機づけとは、行動を発現し維持することで、一定の方向へと導いていく過程を表すものである。
動機づけは大きく分けると動因と誘因がある。動因とは人の内部にある要因によって行動が引き起こされるもので、欲求や要求とも呼ばれる。動因の中でも生存に不可欠な食事や睡眠、排泄などは生理的欲求と呼ばれる。
誘因とは外部からの要因によって行動が引き起こされるもので、このとき動因がそれほど強くなくても行動は引き起こされる。例えば、食欲が満たされているにもかかわらず、食後にデザートを見せられると食べたくなるのも誘因の1つといえる。
社会的動機
アメリカの心理学者H.A.マレーは、人間の行動を欲求ー圧力という動機づけの過程によって説明することを考えた。マレーは、生存に不可欠な生理的欲求を一次的欲求(臓器発生的欲求)とし、社会生活を営む上で必要な社会的動機を二次的欲求(心理発生的欲求)として分類した。
また、マレーは二次的欲求である社会的動機を細かく分類し、下記のような動機リストを作成している。
「社会心理学へのアプローチ | 北樹出版」マレーの社会的動機リストより抜粋- 遊戯動機…楽しさや面白さを求める。緊張をやわらげ、冗談やゲームを好む。
- 理解動機…理論的な考えを求めたり、物事の仕組みを理解しようとする。
- 変化動機…新しいことを好み、流行に敏感で変革を求める。
- 秩序動機…安定、秩序、伝統、などを大切にする。整理、整頓、正確さを目指す。
- 達成動機…努力して高い目標をやり遂げる。才能を生かし自尊心を高める。
- 親和動機…好きな人の近くにいたい、助け合いたいと思う動機。友情を重視する。
- 屈辱動機…自分を責め、非難や罰を受け入れたいと思う。敗北を認める。
- 攻撃動機…言葉や力を使って相手を屈服させたい、反対を克服したいと思う。
- 自律動機…束縛、強制、横暴な権威、因習を嫌い、自由と独立を求める。
- 支配動機…人の上に立ちたい、説得や命令によって人に影響を与えたいと思う。
- 服従動機…優れた人の命令に従い、その人の言う通りにしたいと望む。
- 顕示動機…目立ちたい、人を驚かせたり、楽しませたりして印象づけたいと思う。
- 援助動機…弱い者、困っている者などを助け、慰め、励ましたいと思う。
- 依存動機…甘えたい、助けてもらいたい、愛されたい、同情されたいと思う。
- 異性愛動機…異性を求め、恋愛関係や性的関係に関心を向ける。
- 屈辱回避動機…失敗して軽蔑されることを避けたいと思う。自己防衛的な思い。
マズローの欲求階層説
動機づけにおいて、欲求の種類や誰もが共通に持つ欲求とはなにかという問題は重要である。マズローは5つの基本的欲求が階層を構成しているという欲求階層説を提案した。これは自己実現理論とも呼ばれている。
- 生理的欲求…食事や睡眠、排泄などの生命活動を維持するために必要な欲求
- 安全・安定の欲求…身体的・精神的安全性や経済的安定性の欲求
- 所属と愛情の欲求…集団に所属したいという社会的欲求
- 承認欲求…他人から高い評価を得たい、自尊心を満たしたいという欲求
- 自己実現欲求…自分の能力を最大限に引き出したい、知識を得たい、知りたいという成長欲求
1の生理的欲求が最も低次の階層であり、5に近づくにつれ高次の階層となる。欲求階層説では、低次階層にある欲求が満たされると、より高次な欲求が出現するという構造になっている。
1〜4の欲求は欠乏欲求と呼ばれ、満たされる度合いが少ないほど強くなり、満たされると減少する。5の自己実現欲求は成長欲求と呼ばれ、欠乏欲求が満たされると現れる。
低次な欲求ほど誰もが共通にもっている基本的欲求であり、高次な欲求ほど個人的なものとなる。
マズローによると、自己実現を達成した人々は高度に成熟し、動機や認知のあり方が平均的な人々とは異なるとしており、以下の様な特徴を挙げている。
- 現実をより有効にとらえ、快適な関係を保つ
- 自分や他者を受容できる
- 自発的である
- 自己中心的ではなく課題中心的である
- ユーモアのセンスがある
- 創造的である
- 文化と環境からは独立的であり、文化に組み込まれることに対し抵抗をもっている
- 対人関係において心が広くて深い
- ものごとを客観的にとらえ、深い理解をもつことができる
マズローは晩年、この5つの欲求の他に自己超越の段階があることを発表している。自己超越の段階では、純粋に目的の達成だけを求め、見返りなどを求めず自我を忘れて没頭するというような領域である。
ハーズバーグの動機づけ-衛生理論
ハーズバーグは、技術者と会計士の約200人に対し面接を行い、仕事への動機づけとして、満足感をもたらす要因と不快感や不満感をもたらす要因は全く種類の異なるものであることを発見した。この理論は動機づけ要因と衛生要因と呼ばれる2つの要因からなることから、ハーズバーグの二要因理論、または動機づけ-衛生理論と呼ばれる。
ハーズバーグの調査結果によると、満足感をもたらす動機づけ要因として特に目立っているのが以下の5つである。
- 仕事そのもの…仕事の内容に関することで、仕事が変化にとんでいるか単調か、創造的か無意味か、難しすぎるか易しすぎるかなど。
- 達成…仕事上で成果を上げたり、問題を解決したり失敗したりすること。
- 承認…周囲の人間から認知されたり、賞賛や批難を受けること。
- 責任…仕事上で責任を与えられているかどうか。
- 昇進…身分や地位に変化が起きるかどうか。
これに対し、不快感や不満感をもたらす衛生要因として特に目立っているものは以下の5つである。
- 会社の政策と経営…会社の組織と管理が適当か、戦略やポリシーが有害かどうか。
- 監督の仕方…上司に能力があるか、公正か、教育が積極的かどうかなど。
- 給与…報酬に関連すること。
- 対人関係…上司、部下、同僚との間で生じる対人関係。
- 作業条件…仕事の物理的条件や仕事量など。
衛生要因は充足されれば不満感を防止する役目を果たすが、積極的な勤務態度には効果をもたないとされる。
- 『社会心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2010)
- 『Social Psychology: Goals in Interaction (6th Edition)』 Pearson(2014)
- 『心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2004)
- 『パーソナリティ心理学―全体としての人間の理解』 培風館(2010)
- 『社会心理学へのアプローチ』 北樹出版(2000)