自己制御

人は目標のために何かを我慢して行動を制御することがある。このような自己制御能力の高い子供は大人になった時、学業や社会的スキルなどが優れているという研究結果があるなど、人間にとって重要な能力のひとつであるといえる。


マシュマロ実験

自己制御の重要性が示された有名な実験として、ウォルター・ミシェルらの「マシュマロ実験」がある。この研究では、呼び鈴とマシュマロを4歳の子どもの前において、部屋に一人で残した。子どもは、呼び鈴を鳴らせば研究者がすぐに部屋に戻り、マシュマロを一つ食べることができるが、呼び鈴を鳴らさず研究者が戻るまで待つことができたら、マシュマロを二つ食べられる状況におかれた。その場面を記録したビデオでは、我慢できずにすぐに呼び鈴を鳴らす子どもや、マシュマロから気を逸らそうと手で目を覆い隠したり、足をバタつかせたりする子ども観察され、行動にはかなり個人差が見られた。中には15分間待ち続けることができた子どももいた。

それから約12年後の子どもたちを調べると、呼び鈴を鳴らさず待ち続けることができた子どもはSAT(大学進学適性試験)での得点が高い傾向にあり、社会的、認知的により良好な状態であったという。その後の追跡調査でも、マシュマロを我慢できた子どもは成績優秀者が多いことや社会経済的地位が高い傾向にあることが示されている。

自覚状態

自己制御は、注意が自分に向けられているか、あるいは外界に向けられているかによって影響される。自分に注意が向けられているときを自覚状態と呼び、自覚状態では、人前では常識的な態度を取るべきだといった、現在の状況に関連した基準を活性化させる。すると、自分の行動が基準とズレないように自己制御が働き調整される。

多くの研究から、鏡で自分の顔を見ると自覚状態となりやすいことがわかっており、道徳的な行動がより活性化されるという研究もある。

自己意識

自分を意識しやすい性格特性を自己意識特性と呼ぶが、自己意識特性には、他者から見た自分を意識する公的自己意識と、自分の内的なものに注意を向ける私的自己意識の2つがあり、どちらが働いているかによって自己制御に用いられる基準が異なる。

公的自己意識では、外見や行動など他者が見ている自分に注意を払うため、他者の価値や態度などの外的基準に合わせる傾向がある。一方、私的自己意識では、自分の内面に注意が向けられるため、自分の感情や思考を内的基準に合わせる傾向がある。

制御資源

自己制御が行われると特定のエネルギーが消費されると考えられており、このエネルギーは制御資源と呼ばれている。制御資源を一気に多く消費してしまうと、次の制御で使用できる制御資源が不足し制御が不十分になると考えられている。

実験によると、制御資源を消費させられた実験参加者はそうでない参加者に比べ、より攻撃的な反応を示すという。普段は制御資源によって抑制されている攻撃的な反応が、制御資源の枯渇によって表出しやすくなると考えられる。反社会的行動のいくつかは、制御資源の枯渇によって引き起こされているのではないかとも言われている。逆に望ましい行動が、制御資源によって抑制されている場合には、制御資源の枯渇によって望ましい行動が表出することになる。

自己制御というと行動の抑制に焦点が当てられることが多いが、例えば苦手な科目の勉強や、やりたくない仕事などを行う場合にも制御資源が消費されると考えられる。

また、制御資源は訓練により高められる可能性があることを示す研究もある。ムラヴェンらの研究によると、2週間にわたって食べたものの記録をつけるように指示された実験参加者は、自己制御能力が向上したとしている。

注意と自己制御

マシュマロ実験では、マシュマロを我慢するために子どもたちは様々な行動をとっていた。自分の手で目を覆い隠したり、足をバタつかせたりする行動はどれもマシュマロから注意をそらす行動に見える。

ミシェルらの別の実験では、あまり欲しくないがすぐに得られる報酬と、とっても欲しいが後になって得られる報酬の両方を目の前にして部屋で待つ群と、両方の報酬が見えないところにある群、それぞれ一方だけが目の前に置かれる群の4群で行われた。すると報酬を我慢できる時間は、両方の報酬が目の前にある群で最も短く、両方の報酬が見えないところにある群で最も長くなった。

この実験から、目の前に報酬があると報酬に注意を向けてしまい、より多くの制御資源を消費してしまうため、報酬から注意をそらすことで制御資源を節約できることがわかる。これは視界の中に食べ物がある環境下でダイエットを試みようとすれば、より多くの制御資源を使用してしまうため、失敗する可能性が高いことが予測できる。

達成動機と自己制御

自己制御が行われる状況というのは、マシュマロ実験のようにすぐに得られる小さな報酬と後になって得られる大きな報酬というジレンマであることが多い。これは、大きな目標を達成したいという達成動機と密接に関連していることがわかる。だとすれば、自己制御が働くかどうかは、達成したいという欲求の強さと現在の制御資源に依存するといえる。

社会的学習の観点から見れば、達成動機を持つには適切なモデル(観察対象)を選択することが良いとされる(観察学習環境が子どもに与える影響など)。また、具体的にイメージできる目標は、目の前の報酬から注意をそらす効果も期待できる。


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