観察学習

古典的条件づけやオペラント条件づけは、学習者が自分で行動し試行錯誤を重ねた結果学習することから直接経験と呼ばれる。一方、自分では行動せずに他者の体験を見聞きすることは代理経験と呼ばれ、それによって生じる学習は観察学習あるいは社会的学習と呼ばれる。

模倣による学習は、モデル(対象者)の行動を模倣し実行した結果生じる学習であるといえるが、観察学習は学習者が行動する前に学習が生じてその後の行動に影響を与えるため、モデルと同じ行動をとるとは限らない。モデルと同じ行動をとった場合、それが単なる模倣行動なのか観察学習によるものなのかを分けることは困難であるため、模倣行動は観察学習の一種であると考えることもできる。


バンデューラの実験

トールマンらの実験などによって、以前から行動主義アプローチの限界は指摘されていたが、バンデューラは認知的アプローチによって条件づけとは異なる学習過程を提示している。

バンデューラは子どもたちに、大人が人形に対して発声を伴う攻撃行動をする映画を見てもらった。その後、ある群の子どもたちにはモデルの大人が強化されるのを見せ、別の群の子どもたちにはモデルの大人が別の大人に注意されるなど罰せられるのを見せた。また、第3の群には攻撃行動の結果を見せなかった。

その後、子どもを人形と多くのおもちゃが置いてある部屋に一人残し、行動を観察した。その結果、多くの場合に人形に対する攻撃行動が見られたが、モデルが罰せられるのを見た子どもたちは明らかに模倣行動が少なかった。

バンデューラはその実験の最後に、映画の大人を真似すれば褒美をあげると伝えると、どの群の子どもたちも、それまでと同じかそれ以上の攻撃行動を示した。

この実験から、モデルが罰せられるのを見た子どもたちの模倣行動が少なかったことを、それまでの模倣理論では説明できないことや、観察における新しい行動の学習には必ずしも強化は必要ではないが、新しい行動のパフォーマンスには「強化の期待」が重要であるとバンデューラは結論づけている。

社会的学習理論

バンデューラは、それまでの刺激と反応のみに限定された理論ではなく、認知過程を重視した学習過程を示している。これは社会的学習理論と呼ばれており、この理論では観察学習は注意、保持、運動再生、動機づけの4つの過程で構成されている。

注意過程

観察学習が成立するには、まずモデルの行動あるいは行動の特徴に注意を向けなければならない。

保持過程

注意過程によって得られた情報は、後の行動に反映させるために保持する必要がある。

運動再生過程

保持された情報を使って実際に行動する過程である。バンデューラは記憶の中で保持されている情報は抽象化される場合があると仮定しており、これはオペラント条件づけで生じる般化などを示している。また、行動が再生できるかどうかは、個人が持っている既存の知識によって左右される。

動機づけ過程

上の3つは新しい行動を獲得する過程であるが、その後の行動に反映されるかどうかはこの動機づけ過程による。動機づけは主に外的強化、代理強化、自己強化の3つがある。

外的強化は、その行動が適切に行える状況つまり外的な環境によって強化される場合である。代理強化は、モデルが何らかの強化を受けていることを観察している場合で、学習者もその行動をとることによって強化が得られるという期待が高まることで強化される場合である。自己強化は、自分自身で行動に強化を与える場合である。

自己効力感

社会的学習理論は観察学習の研究から生まれたものであるが、その後バンデューラは自身の理論を発展させ自己効力感(セルフ・エフィカシー)という概念を生み出した。

観察学習を含む多様な学習を統一的に理解するためには、行動によって得られる結果の予期だけでは不十分で、その行動を実現できるという反応に対する予期も必要であるとして、これを自己効力感と呼んだ。

効力予期と結果予期

この効力予期と結果の予期によって、行動は様々なものになる。その中には学習性無力感や抑うつ状態なども示されており、認知療法などにも応用されている。

効力予期と結果予期がもたらす情動と行動(Bandura, 1982)
(『グラフィック学習心理学―行動と認知』 サイエンス社 を基に作成)
行動の結果に関する判断
自己効力に関する判断社会的活動をする
挑戦する・抗議する・説得する
不平・不満を言う
生活環境を変える
自信に満ちた適切な行動をする
積極的に行動する
無気力・無感動・無関心になる
あきらめる
抑うつ状態になる
失望・落胆する
自己卑下する
劣等感に陥る

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