馴化
ある反応を誘発する刺激が繰り返し呈示されると、その反応が減少していく現象は馴化(じゅんか)と呼ばれる。馴化はヒトを含むほぼすべての動物に見られる現象である。
単発の大きな音を聞くと、多くの動物は行動を中断させ音がした方向を振り向く驚愕反応を示す。しかし、同じ音を繰り返し聞かせると、この驚愕反応は徐々に減少していき、最終的にはほとんど反応を示さなくなる。そこで全く異なる大きな音を聞かせると再び驚愕反応を示す。
この例から分かるように、馴化は刺激に特定的である。これは刺激特定性と呼ばれる。これ以外にも馴化にはさまざまな特徴があることが分かっている。
脱馴化
ある刺激に馴化させた後で別の刺激が与えられると、元の刺激に対する反応が大きくなる現象は脱馴化と呼ばれる。
刺激般化
馴化には刺激特定性はあるものの、類似した新しい刺激の場合は馴化が転移することがあり、これは般化と呼ばれる。
例えばピストルの発砲音を何度も聞かせ、驚愕反応が十分に小さくなるまで馴化させる。そして発砲音が違う別のピストルに替え発砲音を聞かせると、最初のピストルで初めて発砲音を聞いたときよりも驚愕反応は明らかに小さいはずである。
般化の量は刺激間の類似性に依存しており、類似性の程度を決めるのは刺激を受けた被験対象による。
刺激強度
強い刺激ほど反射的反応が強く表れ、馴化に対する抵抗も強い。また、非常に強い刺激の場合は馴化が見られないこともある。逆に弱い刺激の場合は反射的反応は小さく、速い馴化を示す。
弱い刺激で訓練されたラットと強い刺激で訓練されたラットに同じ強度の刺激を与えると、弱い刺激で訓練されたラットの方が強い反応を示す。つまり、訓練で用いられる刺激が弱いと、馴化そのものは小さいと言える。
自発的回復と再学習
馴化の後でも、刺激をある時間与えなければ反応は回復する。これは自発的回復と呼ばれるが、この回復の量は時間の長さに依存する。長時間刺激が与えられなければ高い回復量を示す。
しかし、回復後は馴化前と全く同じ状態というわけではない。十分に反応が回復した後で同じ刺激を繰り返し呈示すると、回復する前の馴化よりも速いペースで馴化する。これは刺激に対する記憶が完全に消失したわけではないことを示している。
試行間間隔
刺激が呈示される間隔が短いほど速い馴化を示す。
相反過程理論
馴化の学習タイプは相反過程理論と非常によく似ている。相反過程理論とはソロモンとコービットが提唱した情動反応の内部プロセスに関する理論であり、非常に広い範囲の情動反応に当てはまる。
相反過程理論のプロセスは、快や不快などの情動的な反応をもたらす刺激が呈示されると、まずそれに対応するa過程が喚起される。このa過程は相反する過程であるb過程を引き起こし、このa過程とb過程の減算が表出される情動反応となる。
最初の数回の刺激では、a過程とb過程の喚起にはタイムラグがあり、刺激の呈示直後には大きな情動反応が表出される。同じ刺激を繰り返し呈示していくとb過程は増強され、その結果表出される情動反応は小さくなる。刺激の繰り返し呈示によるb過程の増強は一種の馴化と見ることもできる。
相反過程理論は馴化の多くを説明できるが、相反過程理論自体に批判的な声もある。
- 『メイザーの学習と行動 日本語版第3版』 二瓶社(2008)
- 『学習の心理―行動のメカニズムを探る (コンパクト新心理学ライブラリ)』 サイエンス社(2000)
- 『グラフィック学習心理学―行動と認知 (Graphic text book)』 サイエンス社(2001)