負の強化

ソロモンとウィンはイヌを実験対象としてシャトル箱と呼ばれる装置を使用し、負の強化に関する実験を行なっている。

シャトル箱は2つの長方形の区画に分けられており、区画の間はイヌが跳び越えられる程度の壁によって区切られている。また、それぞれの区画には電気ショックを与える床と、頭上から照らす光が設置されており、数分ごとに頭上の光が消され、しばらくすると床から電気ショックが与えられる。

初期の試行でイヌは別の区画に移動することで電気ショックから逃れることができる逃避を学習する。試行を続けるとイヌは光が消えてから電気ショックが与えられる前に別の区画に移動することで電気ショックを回避することを学習する。それ以降は電気ショックを受けることなく回避を続けていた。

逃避は、不快な刺激である電気ショックが与えられると、別の区画に移動するという行動を起こすことで不快な刺激が消えるわけである。3項随伴性に当てはめると、電気ショックが弁別刺激、別の区画に移動することが反応、電気ショックが消えることが反応後の刺激である。

回避の場合は、頭上からの光が消えることが弁別刺激となり、別の区画に移動するという反応が起こり、電気ショックを回避することができる。

ここで問題となるのが、何が行動を強化させているのかである。逃避の場合は、反応することで電気ショックが消えるという明確な変化があるので電気ショックが負の強化子として働くが、回避の場合は反応しても電気ショックのない状態が継続するので変化がないのである。正の強化の考え方をそのまま当てはめれば、回避には強化子がないので行動は減少し逃避と回避が繰り返されるはずである。

この問題の解釈の仕方を含め、回避にはいくつかの理論が提案されている。


2要因理論

上記の回避の問題について、古典的条件づけとオペラント条件づけの2つの組み合わせによって説明できるとするのが2要因理論である。

電気ショックは恐怖反応を引き起こすUS(無条件刺激)となり、頭上からの光が消えるのはCS(条件刺激)と捉えることができる。このUSとCSが対呈示されているために、CSである光が消える刺激が恐怖反応を引き起こすようになり、この恐怖から逃れるために別の区画に移動するという反応が起きるということである。つまり回避反応と呼ばれているものは逃避反応として捉えることができるのである。

多くの実験からこの2要因理論を支持する結果が得られているが、問題点もいくつか指摘されている。

まず、頭上から光が消えるというCSの呈示後に、イヌは別の区画に移動するため電気ショックを受けない、つまり嫌悪刺激が呈示されないわけだからCSの強度は弱まり、回避反応は減少するはずである。しかし、ソロモンとウィンの実験では電気ショックを受けずに回避を続けていた。

回避を続けるということは恐怖反応が持続するはずであるが、心拍率を恐怖の指標として用いた多くの実験では、回避が繰り返されるにつれて恐怖反応は減少する傾向があることがわかっている。

1要因理論

回避をオペラント条件づけだけで説明できるとするのが1要因理論である。電気ショックの回避はそれ自体が強化子の役割を果たすという考え方である。シドマンは回避の説明に古典的条件づけの要素は必要ないことを、シドマン型回避スケジュールという手続きによって示している。

この手続きは電気ショックの前にそれを知らせる刺激がなく、規則的な時間間隔で電気ショックが与えられる。ラットはレバー押し反応によって電気ショックを回避することができる。この課題でも電気ショックの多くを回避することができるようになる。

ただし、この課題では時間経過がCSとして働くため、古典的条件づけによる説明も可能であることをシドマン自身も認めている。従って時間経過を含まない実験が必要となり、これを満たすものとしてハーンスタインとハインラインの実験がある。

ラットがレバーを押すと、電気ショックが高頻度で与えられるスケジュールから低頻度へと変化するが、電気ショックを確実に避けられるわけではない上に、どの程度の時間安全なのかもわからないようにするものである。その結果、ほとんどのラットが回避反応を獲得している。ハーンスタインとハインラインは、時間経過や外的な刺激(CS)がなくても回避反応を学習できると結論づけている。

また、回避反応が減少しにくいことに関しては、連続強化と間欠強化の消去抵抗の違いと同じように、変化を弁別できないためであるとしている。(強化スケジュール後の消去

負の強化の消去

上記で見たように回避反応は消去されにくい。課題が終了し回避しなくてもショックが起こらない状態になっても、変化がないため回避反応を続けるわけである。

回避を消去する最も簡単な方法は、回避反応を起こしたときにショックを与えることである。すると回避反応は急速に消去される。反応後の刺激の変化によって回避をしないという反応が表れるからである。

この他にも回避を素早く消去する方法としてフラッディングがある。反応妨害とも呼ばれ、その名の通り強制的に反応できないようにするもので、無反応でもショックが起こらないことを強制的に体験させるのである。こちらも理屈は簡単で、無反応ならショックを受けるという結果が、無反応でもショックなしという結果への変化を学習できるからである。

学習性無力感

ソロモンとウィンのシャトル箱を使用して、実験対象がどちらの区画にいても電気ショックが与えられるような状況になれば、実験対象は反応することをやめてしまうと考えられる。

セリグマンは、このような逃避不可能なショックを与えた後にシャトル箱の回避学習を行わせても、約2/3の実験対象が逃避や回避を全く学習しなかったと発表している。これは自分の行動が環境に影響を与えないという予期を発達させ、広範囲な事態に般化するとしており、セリグマンはこれを学習性無力感と呼んだ。学習性無力感は多くの動物種で確認されており、原始的なゴキブリでさえも見出されている。

ヒトを用いた実験でも確認されており、例えばセリグマンとヒロトの実験では、大学生を回避できない大きな騒音に曝し、その後にアナグラムを解いてもらう。騒音に曝されなかった群は試行が進むにつれ、アナグラムを解くスピードはどんどん速くなっていったが、回避不可能な騒音に曝された群はほとんどの問題を解くことに失敗したり、時間内に解くことをあきらめたりした。また、騒音に曝された群は多くの試行を行なってもわずかな進歩を見せただけであったという。

セリグマンとマイヤーは、学習性無力感には動機づけ、認知、情動の3つの構成要素があるとしている。動機づけの面では、実験対象自身が環境の中の出来事を制御しようとする動機を失ってしまうため、簡単にあきらめてしまう。認知の面では学習する能力の低下が挙げられる。統制群と比較すると、成功が与えられたときでさえ学習が遅れるという研究もいくつかある。実際に学校の教室内でも、何度チャレンジしてもうまくできない子やすぐにあきらめてしまう子供達がいる。このような子供達も何らかの回避不可能な嫌悪刺激によって学習性無力感に陥っている可能性も示唆されている。

セリグマンは学習性無力感の状態がうつ病の症状に似ていることを示し、うつ病の無力感モデルの基礎を形成している。また、ある種の薬物が投与された動物は、薬物が投与されていない動物に比べ学習性無力感が少ないという研究もあり、薬物による治療法についても研究が進んでいるが、セリグマンらの研究は薬物を必要としない治療の可能性も示している。

一般的に最も良い治療法は、対象を絶対に失敗しない状況に置くことである。自分の行動が少しでも環境を制御できるという予期を発達させることができるのである。

学習性無力感の予防法として、セリグマンが免疫化と名づけたものがある。簡単に説明すると、最初にショックから逃避できることを学習した動物は、その後に逃避不可能なショックに曝されても学習性無力感が少ないというものである。実際の場面でも、最初から難しい問題を与えるのではなく、簡単な問題からスタートし徐々に難しい問題へとシフトしていく方が良いことを示している。

種に固有な防御反応

ロバート・ボレスは回避学習において動物は生物学的な準備性を示すと提案し、これを種に固有な防御反応と呼んだ。

実際にラットを使った実験で、ショックが与えられると跳んだり走ったりして逃避し、数試行の間に回避を学習できることを示した。これはラットにとって危険に対する非常に出現頻度の高い逃走という反応と一致しているためであるとした。つまり、ラットにショックから逃避させるのにレバー押し反応を行わせようとしても、簡単には学習できない。

鳥などの空を飛ぶ動物に床からのショックを与えた場合、走り回るよりも空に飛び立つほうが鳥にとっては圧倒的に簡単で確実なのである。


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