長期記憶

一般的に、ヒト以外の動物の記憶能力はヒトよりも劣っていると考えられがちであるが、ラットのワーキングメモリの実験を見ても分かる通り、我々の想像を超える能力を示すことが多々ある。それはハトの長期記憶の研究においても見られる。

ヴァーンとグリーンは、ハトに2対となる40組80枚の写真を弁別する課題を行っている。ハトはこれを約10セッションで90%以上の正答率で弁別できるようになった。同様の課題をさらに3セット行うと学習するスピードはより早くなっていき、最後の2セットではわずか2~3セッションで学習が完了した。最後に160組320枚の写真で課題を行ったが、正答率は90%を上回っていた。驚くべきことに、その後3年近く経った後でも、最初の日こそ正確ではなかったものの、すぐに写真を弁別できるようになった。

これは、ハトが視覚的な画像情報を大量にかつ長期的に記憶できることを示しており、サルにおいても同様の結果が得られている。


チャンク

ヒトのワーキングメモリで一度に保持できる情報の数は7±2であることが知られている。ただしその単位は、チャンクと呼ばれるひとつのまとまりであり、7つのチャンクが保持できるということである。

例えば、見たことのない本100冊のタイトルを記憶するのは容易ではないが、同タイトルの漫画100冊なら、「〇〇 1巻」「〇〇 2巻」といったタイトルの後の数字が違うだけなので、記憶するのは簡単だ。なぜなら、既に1~100の数字が順番に長期記憶の中に保存されているからである。

また「学習心理学」という言葉にしても、学習心理学を勉強している人であれば、「学習心理学」全体がひとつのチャンクになっているかもしれないし、あるいは「学習」と「心理学」という2つのチャンクで構成されているかもしれない。漢字を覚え始めたばかりの人であれば漢字一文字がひとつのチャンクとなることもある。

これらの例からも分かる通り、外部からの情報がどのようにチャンク化されるかは既存の記憶、つまり長期記憶に依存している。ワーキングメモリの容量に限界があることを考えれば、チャンクの内容がすべてワーキングメモリに保持されるわけではなく、チャンクの内容を参照できるような(例えばチャンクが保存されている場所など)何らかの情報がワーキングメモリに保持されると考えることができる。

ここでは数字や言葉を例にチャンクを見てきたが、これらを苦手とする動物たちがチャンクを用いて学習したり記憶したりすることは、様々な実験から得られている。

ハトのチャンク

テラスらは、ハトがチャンクを用いていることを実験によって示した。ハトの課題は、ランダムな位置に呈示された5つの刺激を正しい順序でつつくことであった。刺激として用いられたものはいくつかの色と、黒い背景に白い形が描かれたもので、5つの刺激はすべて異なるものである。テラスらは、ハトを5群にわけ、ある群には正答リストを2つのチャンクに分割し、初めの3つが色刺激で後の2つが形、別の群には4つの色刺激が1つのチャンクとなるよう割り当てた。残りの3群の正答リストはチャンクにまとめられていなかった。

その結果、チャンクにまとめられていた2つの群は、正しい順序で行えるようになるまでの試行数が有意に少なく、終わり頃には他の群よりも試行を素早く遂行するようになっていた。

後の実験では、一度チャンクを学習したハトは、同じチャンクを別の正答リストにも使用できることわかっている。

ラットのチャンク

ラットの場合にもチャンクを使用していることを示す証拠がある。ダラルとメックは12本のアームを使用した放射状迷路で、アームの先端に置かれる食物を、4本にはヒマワリの種、別の4本には食餌ペレット、残りの4本には米粉にして実験している。(放射状迷路については「ラットのワーキングメモリ」を参照)

すると、毎試行同じアームに同じ食物を置いた群では、連続して同じ食物を取りに行くなど、食物の種類でチャンクする傾向があった。また、試行ごとに食物の位置をランダムに変えた群よりも、一度訪れた餌のないアームを再び訪れることが少なかった。

ダラルとメックは、ラットが食物の種類に基づいてアームをチャンクすることで、ワーキングメモリの負荷を減らし、より高いパフォーマンスを実現していると結論づけている。


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