パターン認知
図と地の分化
対象の形を知覚するためには、対象を背景から分離し、まとまりとして取り出す必要がある。これを図と地の分化と呼ぶ。まとまりのある形として見える部分を図と呼び、その図の背景となっている部分を地と呼ぶ。図と地の分化が生じたとき、次のような特徴を持つ。
- 図は形を持ち、地は形を持たない。図と地の反転が生じても、両方が同時に形を持つことはない。
- 図と地を区切る境界線は、図の方に属しているように知覚される。
- 図は手前に浮き出ているように知覚され、地は背後に広がっているように知覚される。
また、見ている対象に複数の図があれば、それらがまとまりをもって知覚されることがある。このまとまりを知覚的群化、または群化と呼ぶ。図のまとまり方には、以下のような法則性があり、ゲシュタルトの法則とも呼ばれる。
- 近接の要因…距離の近いものは1つの形にまとまって見える。
- 類同の要因…形や色などが似ているもの同士は、まとまって見える。
- 閉合の要因…閉じた領域を作っているものは、まとまって見える。
- よい連続の要因…連続した形やパターンをつくっているものは、まとまって見える。
- 共通運命の要因…一緒に動いたり変化したりするものは、まとまって見える。
- 経験の要因…過去の経験によって関連付けられている者同士は、まとまって見える。
概念駆動型処理とデータ駆動型処理
人間の視覚的なパターン認知には、概念駆動型処理とデータ駆動型処理がある。概念駆動型処理とは過去の経験や知識などに基づいて、高次なレベルから情報が処理されるパターン認知で、トップダウン処理とも呼ばれる。例えば、紙に書いてある文章の一部が薄れて、一文字ずつだとその文字を特定するのが困難な場合でも、人は前後の文脈からその文字を推測することができる場合などである。
データ駆動型処理とは、低次レベルでの感覚入力データに基づいた処理が行われ、その後、より高次なレベルへ情報処理が進むパターン認知で、ボトムアップ処理とも呼ばれる。これは、経験や知識などに依存しないもので、例としては幾何学的錯視などが挙げられる。
鋳型照合モデルと特徴分析モデル
視覚パターンの認知の代表的なモデルとして、鋳型照合モデルと特徴分析モデルがある。鋳型照合モデルとは、あらかじめいくつもの鋳型を持っており、その鋳型と入力情報とが照合されるという考え方である。このモデルは、視覚情報が同じ形でも、大きさや傾きが鋳型とずれている場合のパターンを考えると、膨大な量の鋳型が必要になる。いくら人間の脳が優れていると言っても、無限に近いパターンの鋳型が用意されているとは考え難い。
一方の特徴分析モデルは、視覚情報をいくつかの特徴によって構成されたものとしてとらえて認知しようとするものである。入力された情報は、いくつかの特徴に分けて分析が行われ、その後、各特徴が統合される認知パターンである。その中で、文字のパターン認知の仕組みとして、パンデモニアムモデルが提唱されている。このモデルでは、以下のような4種類のデーモンの分業システムが仮定されている。
- イメージデーモン…入力された情報のイメージを記録し、符号化する。
- 特徴デーモン…垂直線分、水平線分、斜線分などの特徴を、各特徴デーモンが、刺激の特徴を記録する。
- 認知デーモン…入力された文字の特徴と、各デーモンが自分の担当する文字の特徴に応じて反応する。
- 決定デーモン…どの認知デーモンの反応が最も強かったかを決定し、文字を認知する。
パンデモニアムモデルでは、入力された文字が多少変形していても、正しく認知できる。しかし、これらのボトムアップ処理だけでは正しく認識できないパターンもあり、人間のパターン認知では、文脈に依存したトップダウン処理も行われている。
- 『認知心理学 (New Liberal Arts Selection)』 有斐閣(2010)
- 『認知心理学 (放送大学教材)』 放送大学教育振興会(2013)
- 『錯覚の科学 (文春文庫)』 文藝春秋(2014)