独占
基礎的なミクロ経済学は、完全競争市場を前提としているものが多い。完全競争とは、市場に非常に多くの生産者と消費者がいて、個々の生産者や消費者が生産量や消費量を変化させても価格に影響を与えないような状態である。
ただし現実を見ると、少数の生産者が価格支配力を持っている場合がある。生産者が市場に1社しかない独占や、少数の企業による寡占である。これらは不完全競争と呼ばれる。
寡占についてはゲーム理論で扱われるので、ここでは独占についてみていく。
なぜ独占が生じるのか
独占が生じる基本的な原因は参入障壁である。市場に参入しても、その企業との競争で勝ち目がないことがわかっていれば、誰も参入はしない。独占企業はその市場で唯一の生産者であり続ける。
参入障壁の源泉には以下の3つが考えられている。
- 資源の独占:生産に必須の主要な資源をひとつの企業が保有している。民間の企業で生じることはめったにない。
- 政府によって作られる独占:ある財やサービスを生産する排他的な権利を、政府がひとつの企業にのみ与えている。特許や著作権などが代表的な例。
- 自然独占:固定費用が高いなどの理由により、たくさんの企業よりもひとつの企業で生産した方が費用が小さくなる。電気・ガス・水道・鉄道などのインフラ関係に多い。日本では自由化されていたり、部分的に自由化されているものもある。
独占企業の行動
完全競争であれば市場で与えられる価格は一定であると考えて行動するが、独占企業の場合は生産量を変えると価格が変化することを見越して行動することになる。
通常は需要曲線が右下がりになるので、生産量を増やすと価格は下がり、生産量を減らせば価格は上がる。これが独占企業の価格支配力と呼ばれるものである。
上の図のように、独占企業の収入は生産量と価格の掛け算となり、限界費用の上の部分は利潤となり、下がコストとなる。
このとき、生産量を限界的に1単位増やしたときに収入がどれだけ増えるのかを限界収入という。この限界収入が限界費用よりも高い場合に生産量を増やせば、収入の増加がコストの増加を上回るので、利潤は増加する。逆に限界収入のほうが限界費用よりも低いときは、生産量を減らせば収入の減少よりもコストの減少が大きいので利潤は増加する。つまり、独占企業における最適な生産量は、限界収入と限界費用が一致する生産量であることがわかる。
最適な価格は、最適な生産量と需要曲線から求められる。
独占企業の問題点
以下の図を見ると、独占企業が利潤を最大化すると、完全競争時の市場均衡よりも総余剰が小さくなることがわかる。
一般的に、独占されている市場は完全競争市場と比較すると以下のようになる。
- 生産量が減少し価格が上がる
- 企業の利潤は上昇するが、消費者余剰は減る
- 企業の利潤の上昇よりも消費者余剰の減少のほうが大きくなるので、総余剰は減少する